戦後の公衆衛生描く 琉球衛生研・吉田元所長 「琉球衛研物語」出版


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「琉球衛研物語」を手にする吉田朝啓さん=29日、那覇市天久の琉球新報社

 琉球政府琉球衛生研究所の5代目所長を務めた医師の吉田朝啓さん(86)が、自らの半生を振り返り、衛生研究所を舞台に戦後沖縄のさまざまな問題を描いた「琉球衛研物語」を出版する。米軍による環境汚染、ハブ対策や日本脳炎などへの対応を記しており、吉田さんは「沖縄のために働いた職員たちの活躍を知ってほしい」と語った。

 那覇市出身で、名古屋大医学部卒。30代の時、県出身者が多いボリビアに琉球政府から医師として派遣されたほか、英国で公衆衛生を学んだ。1970年に琉球衛生研究所の所長に就任し、県公害衛生研究所と改称された後の90年まで務めた。文章を書くのが好きで、50年以上日記をつけているという吉田さん。「琉球衛研物語」では、衛生研究所が直面した問題にどう対処したかを、職員たちとの軽妙な会話も交えてつづった。連絡が取れない職員など一部を仮名にしているが、西銘順治元知事や初代沖縄開発庁長官を務めた山中貞則さんといった著名人は実名で登場している。

 米軍の航空機燃料の流出や、枯れ葉剤の成分であるPCP(ペンタクロロフェノール)が本島南部の水道水から検出された事案など、米軍基地があるために起きた環境問題についても多数記載。吉田さんは「米軍人やその家族らを守るのが第一目的だったにしても、米軍は沖縄で中央病院の整備や医療要員育成など公衆衛生施策を進めた」と指摘する一方「基地絡みの問題は戦後から現在まで続いている」と話す。

 同書の編集を手掛けたコピーライターの樋口謙一さん(71)によると、写真やコラムを使い、専門知識がない人でも読みやすいよう工夫した。464ページで税抜き1600円。2月2日に那覇市のダブルツリーbyヒルトン那覇首里城で開かれる出版記念会で購入できるほか、2月上旬から順次書店に並ぶ。問い合わせは樋口さん(電話)090(6638)6559。