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「奏花、ゴールだよ」 亡き娘と走った42.195キロ 屋宜さん、胸の写真に呼び掛け


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 ◆2018おきなわマラソン

ゴール後、奏花さんの写真に触れる屋宜司さん=沖縄市の県総合運動公園陸上競技場

 ゴールとなるアーチをくぐって走りを止めると、首からぶら下げた写真を笑顔で眺めて、口づけした。屋宜司さん(39)=宜野湾市=は「ゴールだよ」とつぶやいた。写真に写るのはまな娘、奏花(そよか)さん(享年7)。2016年12月、奏花さんが乗った車に、対向車線から進入してきた車が衝突。奏花さんは帰らぬ人となった。「苦しみは癒えない。理不尽に未来が奪われた子がいたことを伝えたい」と訴えた。

 屋宜さんは36歳のときに、初めてフルマラソンに挑戦した。子どもたちにかっこいい姿を見せたかったからだ。「頑張ったら完走できるところを見せたかった。子どもたちの自慢になれれば」と当時を振り返る。奏花さんの命が奪われたのは前回のおきなわマラソンの2カ月前だった。

 まな娘を失い、喪失感が襲った。パン職人の屋宜さんは職場にも行けず、家にこもった。息子の奏汰君(11)の「お父さんのパンが食べたい」の一言が、屋宜さんの背中を押した。近所の人たちも毎日のように、屋宜さんたちを励ました。「元気な姿を見せたい」と思い、昨年のおきなわマラソンに出場した。

 喪失感は消えていない。「ずっと生傷を抱えているようなもの。どうにかごまかしながら生きている」と吐露する。

 娘と一緒に走った42・195キロ。苦しいときに、写真に目をやる。きれいな景色を見つけると「きれいだね」と声を掛ける。ゴールした屋宜さんを奏汰君が迎えた。奏花さんの写真が、完走メダルの横で揺れた。「今年も娘と完走できてよかった」。その一方で、埋められない思いを抱えている。

(安富智希)