性暴力被害、性別問わず レイプクライシス・ネット講演会


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性暴力被害について話すレイプクライシス・ネットワークの岡田実穂さん(右)と宇佐美翔子さん

 性暴力のサバイバー(生き抜いた人たち)を支援するNGO「レイプクライシス・ネットワーク」(RC-NET)の岡田実穂さんと宇佐美翔子さんを招いた講演会「沖縄で考える このまちは性的侵害にどう向き合うか」(沖縄講演実行委員会主催)が3月24日、西原町の琉球大学50周年記念館で開かれた。約50人が参加した。2人は「性の権利を侵害する性暴力は性別を問わず起きている」と指摘し、被害を見えにくくしている法制度の問題点や当事者に寄り添った支援の在り方を語った。

 岡田さんと宇佐美さんは、性暴力被害の相談支援が女性に限られている状況に違和感を抱き、2008年に主にセクシュアルマイノリティーやセックスワーカーの支援を行うRC-NETを設立した。コミュニティーカフェの運営や相談事業をはじめ、アンケートを基にサバイバーが必要とする機関への紹介状の発行など多様な取り組みを展開している。

真剣な表情で耳を傾ける参加者=3月24日、西原町の琉球大学50周年記念館

 岡田さんは、活動を通して女性たちがようやく「性暴力は自分たちの問題だ」と思えるようになってきたと指摘。一方、法整備が不十分であることや社会の偏見で男性やLGBTのサバイバーらが声を上げにくい社会であると話し、「同性間やLGBTの被害は特別だと思われているが、性暴力は性自認や性指向に関わらず起きている。被害にあった誰もが助けてと言っていい。法律や社会システムを変えていかなければサバイバーは孤立したままだ」と訴えた。

否定せず耳傾けて

 講演では、サバイバーの経験を基にまとめられた指標「レイプトラウマ・シンドローム(RTS)」が紹介された。被害後にサバイバーがさまざまな気持ちや体験を経験し、揺り動かされる中で徐々に回復に向かう過程を示している。

 岡田さんはRTSの指標を基に、性暴力被害者が一見ショックを感じていないように見える場合でも、理解できない状況を考えないようにしようと脳がフリーズしてしまう「無感覚症状」に陥っている可能性があると説明した。

 また「一日も早く日常生活に戻りたい」という思いから、自分が受けた暴力を薄めるために自傷行為や性行動をとる「アクティングアウト(行動化)」が起こることもあると話した。「行動化は必ずしも悪いことではない。被害を乗り越えようともがくサバイバーの力強さでもある」と強調し、「『自分を大切にして』など、周囲が倫理観で語る言葉は全く通用しない。否定するのではなく、乗り越えようとしていることに耳を傾けて」と話した。

見えにくい被害

 講演会では、17年に改正された性犯罪に関する刑法の問題点も指摘。RC―NETは法務省に対し、「性器に限らず手指や器具を含め、合意のない性的身体侵襲行為を強姦(ごうかん)とすること」を求めたが、改正後も手指や器具は含まれなかった。岡田さんは「法が規定する性暴力はごく一部で、潜在的な被害がかなりある。法が変わることで見えにくかった性暴力被害に社会が気付くことがある。法が変わらない限り社会の偏見や二次被害はなくならない」と訴えた。

 性暴力被害を受ける際に加害者以外の傍観者がいたと多くの被害者が証言しているというアメリカの調査報告も紹介。宇佐美さんは「気付かないことにせず、少しでもおかしいと違和感があれば声を掛けるなど、介入することを恐れないでほしい」と呼び掛けた。