1917年に沖縄を訪れ、風景や植物など59枚の写真を残した英国人プラントハンター、アーネスト・H・ウィルソンが同年2月27日に撮影した「大山平松」の写真の男性が、現在の宜野湾市大山に住んでいた石大工の故・名城加目(かめ)さんであることが分かった。
大山地区のシンボルとして親しまれていた大山平松は沖縄戦で失われた。ウィルソンの写真には、現在国道58号になっている道を覆うように枝を広げ、その下で石積みをしている男性が作業の手を止めて直立する姿が映っている。この男性を加目さんだと気付いたのは、大山在住で王府おもろ伝承者として活躍している安仁屋真昭さん(78)。戦前、地域にただ一人の石大工がいたと聞いていた。
加目さんは沖縄戦が始まって間もなく、1945年4月4日に避難していた墓の付近で亡くなった。沖縄戦で戸籍が失われ生年月日は不明。1876年生まれの妻ウトさん(1969年死去)と同世代だとすると、撮影時は40代前半、亡くなったのは70歳前後だと考えられる。
安仁屋さんは昨年10月、大山在住で加目さんの生前の姿を知る又吉タケさん(98)、伊佐ハルさん(95)、伊佐ノブさん(90)を、ウィルソン展を開催していた県立博物館・美術館に連れて行き、写真を見てもらった。晩年しか知らないため確信を得るには至らなかったが、ハルさんは子どもの頃に自宅の井戸の石積みをしてもらった記憶がよみがえったという。ハルさんは「家が隣だった。スマートなおじいだった」と思い起こす。加目さんの孫に当たる石川幸栄さん(76)は2003年に亡くなった9歳上のいとこの写真と比べて「よく似ている」と話した。
安仁屋さんは「生前の写真がなく比べられないのは残念だが、状況から加目さんに間違いない」と話し、100年前の写真を通して地域の先輩に再会できたことを喜んでいる。
ウィルソンの写真には顔が判別できる地元の人が20人余り写っている。氏名が判明したのは、当時沖縄県の林務技手でウィルソンを案内したとみられる園原咲也さん(1885~1981)に次いで2人目。