振興、子育てで違い 沖縄市長選 立候補予定者座談会


この記事を書いた人 Avatar photo 宮城 久緒
沖縄市長選立候補予定者の(左から)諸見里宏美氏、桑江朝千夫氏=4日午後、沖縄市の琉球新報中部支社

 【沖縄】琉球新報社は4日、15日に告示、22日投開票の沖縄市長選を前に沖縄市の中部支社で、現職の桑江朝千夫氏(62)=自民、公明、維新推薦=と新人で前市議の諸見里宏美氏(56)=社民、共産、社大、自由、民進推薦=の立候補予定者2人による座談会を開いた。5日朝刊で掲載した座談会の詳報と動画をWEB上でも紹介する。

 座談会では経済振興や子育て支援などの政策で手法の違いがあったほか、米軍牧港補給地区(キャンプ・キンザー)倉庫群とキャンプ瑞慶覧のスクールバス関連施設を嘉手納弾薬庫知花地区に移設することについては賛否が分かれた。

 雇用創出や経済振興について、桑江氏は「公共投資により雇用を創出し、失業率を改善できた」と実績を強調。1万人規模の多目的アリーナ建設については「子どもの夢、市民の自信につながる」と訴えた。

 諸見里氏は「映画村の構想や工芸の郷(さと)、アグリビジネスなどの産業を育てる」と力を込めた。その上で「地域資源と結び付く産業で雇用を創出する」と語った。

 知花弾薬庫への施設移転については、桑江氏が「基地の整理縮小は速やかに行われるべきだ」と受け入れ理由を説明した一方で、諸見里氏は「市民合意が無い受け入れは許されない」と反対姿勢を見せた。

 課題となっている待機児童問題は双方とも解消に向け注力する方針を示した。

 クロス討論では、事業の民間委託や自治会活動に対する姿勢など多様な質問をぶつけ合い、白熱した議論が交わされた。(文中敬称略)

〈 出席者 〉

桑江朝千夫氏(62)

=無所属現職、自民、公明、維新推薦

諸見里宏美氏(56)

=無所属新人、社民、共産、社大、自由、民進推薦

司会・新垣和也(琉球新報中部報道部長)

【経済・雇用】

地域資源生かす 諸見里氏

公共投資を継続 桑江氏

-沖縄本島中部の中核都市である沖縄市の経済振興、中心市街地の活性化などの政策を、雇用創出を含めて聞かせてほしい。

諸見里 沖縄市の最大の魅力は文化だ。独特な町並み、個性的な人材が輩出されてきた。映画のロケ地としても注目を集めてきた。アグリビジネス、フィッシャリーナ、工芸の郷(さと)など地域の資源と結び付くような産業を育てる。クルーズ船で訪れる海外からの観光客も誘客する。若手経営者を育成するため、空き店舗を利用してチャレンジする若者を支援する。大型ハコモノではなく、生活密着型の公共事業を市内業者優先で実施する。仕事を増やし、雇用の拡大を図る。地域資源を生かした産業を育てて雇用を創出し、経済振興に取り組んでいきたい。

桑江 かつて14・5%だった失業率を7%まで改善した。4年間で前市政から公共投資を40億円近く増やして、雇用創出に取り組んできた。内容は市営団地の建設、小中学校の増改築、新しい公園づくり、上下水道の整備などだ。それにより4年間で市税が14億円増え、失業率は半減した。今後も公共投資は継続していく。街づくりにおいては商店街のリノベーションなど新しい方法を取り入れる。若者の創業・起業支援のための「スタートアップカフェコザ」も開設した。在宅就労も支援する。新しくチャレンジする若者を一生懸命応援していく。

 

【市長選の意義】

さらに活性化へ 桑江氏

暮らし応援優先 諸見里氏

-市長選の意義は。

桑江 この4年間で沖縄市は活性化してきた。かつて停滞していた革新市政に戻すのか。あるいは保守中道で活性化した今を、さらに前へ進めるかどうかを問う選挙だ。革新市政の停滞の8年間で、市民生活に暗い影響を及ぼした。くわえビジョンを着実に実現し、税収や雇用状況も好転してきた。活性化した4年間をさらに進化させるかどうかが問われている。

諸見里 今必要なものはハコモノでない。暮らしの応援が優先だ。市民が求めているのは、安心して暮らせる沖縄市をどうつくるかだ。基地の騒音問題や貧困対策、子どもたちの教育、循環バスで交通弱者をなくすことに取り組む。市民皆が輝ける沖縄市にできるのは誰か。アリーナやサーキット場の大型ハコモノよりも市民の暮らしをどうつくるかが大きな争点だ。

 

【子育て・福祉】

若年妊産婦を支援 桑江氏

保育士賃金を助成 諸見里氏

-待機児童問題や貧困世帯への支援にどう取り組むか。

桑江 待機児童解消にはプロジェクトチームを立ち上げて精力的に取り組んできた。前市政の3倍の1663人の受け皿を4年でつくった。雇用創出や経済の好転で2014年当時と比べ25~30歳の女性の就業率が5%増えた。人口が増え、働く機会が多くなった女性が現れてきたのであり、暗く見るべきではない。貧困対策は若年妊産婦の居場所づくりを始めたい。沖縄市は18歳以下で妊娠する女性が県内で著しく多い。妊娠は歓迎されることだが、されない場合もある。子どもの居場所づくりから出産時まで一体的に支援できる仕組みを構築する。

諸見里 一番に掲げるのは待機児童の解消だ。沖縄市の課題は保育士が不足しており、施設が充実していても働く保育士が少ない。なぜ離れるのか。保育の現場は、命を預かる過酷な労働状況で、さらに低賃金のため安定しない。保育士が見つからず、定着しないために、定員割れしている保育所もある。低賃金で定着しない保育士の待遇改善のため、市で助成する。保育の質を保ちながら支援強化を図り、認可外保育所の認可化と併せて、給食費の補助を認可保育所並みに引き上げていく。現市政でカットされた援護費の復活も目指したい。

 

【基地問題】

機能強化には反対 諸見里氏

騒音など断固抗議 桑江氏

-外来機の飛来などで騒音被害が激化する米軍嘉手納基地の運用の在り方や、嘉手納弾薬庫知花地区への米軍施設の移設など基地問題についてはどうか。

諸見里 現市長は市民合意もないままに、唐突に、しかも東京の防衛省で牧港補給地区の移設を容認した。地域説明会で上がった住民の反対や心配の声、交通渋滞や環境問題についても説明が果たされていない。それから以前、米軍基地の返還跡地から大量の有害物質を含むドラム缶などが発見され、深刻な土壌汚染が問題になったように、環境影響も含め、徹底した情報開示を求めていかないといけないのではないか。市民合意がない受け入れは許されない。地域の不安をまず受け止め、機能強化につながるような受け入れには反対する。

桑江 嘉手納基地から派生する騒音などには断固抗議し、パラシュート降下訓練は徹底して中止を申し入れる。牧港補給地区の件だが、私は以前から沖縄の過重な負担の軽減は賛成している。牧港補給地区が返還されることは県全体の経済にとって大きなプラスになる。われわれの負担が多くなるが、地域住民にもしっかりと説明をしてきた。課題解決に向けて、市と沖縄防衛局、防衛省の3者で協議会を設置した。それによって河川氾濫解消のための基地内の工事も日米で合意された。渋滞解消に向けても政府と県と3者で施策を実施していく。

 

【クロス討論】

桑江氏から 自治会どう考えるか/諸見里氏 役割は重要性増す

諸見里氏から 窓口委託で負担増だ/桑江氏 民間にチャンスを

桑江 東部海浜開発事業がいまだにできていない。諸見里さんの支持母体は長年反対の立場で行動し経済的損失は大きい。立場は事業の推進か、反対か。

諸見里 現計画は約10年前に作られた。時代や需要の変化もあるため、埋め立てた後に再検討し、現状にそぐわない事業であれば見直す。養殖や観光、商業施設の配置などの産業振興に資する事業計画や、現在の市民ニーズに合わせた街づくりに新たに取り組む。

諸見里 待機児童が500人を超えている。全国でワースト8、県内最悪だ。認可外保育所の援護費もカットされた。この危機的状況に策はあるか。

桑江 待機児童数は現在300人程度だ。前市政は4年間で630人の受け皿しか作れなかったが、私は1663人分増やした。子を預けやすい環境ができ、若い女性が就労している。援護費は削減していない。県と市の補助事業を合体して金額を増やしている。

桑江 現在無料塾などで学び直しを支援している。夜間中学校は県立になり、市民だけの対象にならない。市に需要はあるか。

諸見里 文科省は地方公共団体に夜間中学校を設置し、就学の機会を提供するよううたっている。市内には不登校生徒が200人余り、中卒で進路未決定者が約50人いる。基礎学力を獲得できていない若者の存在が大きな課題だ。既存の学習支援で足りない部分をカバーしていく。全国では市町村で設置しているところもあり、補助金で賄える。沖縄市だからこそつくるべきだ。

諸見里 アリーナ事業の説明が不十分だ。200億円超えの財源はどうするのか。本土の建設企業が主導し、市内業者優先でない。

桑江 昨年10月から周辺地域の自治会で市民に説明している。基本計画に200億円という数字は出ていない。実施設計を精査する中で、数字はこれから出てくる。市民負担を減らすため、9割補助を獲得した。(プロバスケの)キングスの試合だけでは赤字だが、エンターテインメント業界からの注目もある。鹿島建設と地元3社で取り組んでおり、地元優先に変わりはない。

桑江 子どもや高齢者の見守り、独居老人の把握など防災の観点から自治会の存在価値は大きい。自治会の存在をどう考えるか。

諸見里 福祉や介護の施策が切り捨てられる中、自治会の役割は重要性を増している。中の町小学校PTA会長時代には、自治会と連携し、地域の課題解決に取り組んできた。地域自治の強化と市民の生活支援ができ、市民の声を直接聞ける場として強力に自治会活動を支援したい。

諸見里 市民窓口の委託は4600万円のコスト増で市民負担を増やし、市外業者が契約した。市民感覚と逆行していないか。

桑江 市民サービスと雇用を充実させ、民間のビジネスチャンスを増やすために実施した。当初は負担があったかもしれないが、今後は市民サービスが徹底され雇用も増え、次回の募集に向け市内事業者が起業し応募する可能性がある。民間ができることは民間に任せチャンスを増やす。

 

【訴え】

アリーナで夢を 桑江氏

市政に弱者の声 諸見里氏

-これまでの討論を受け、最後に訴えたいことを。

桑江 1万人規模のアリーナを建築する構想が世界から期待され、2023年にバスケットボールワールドカップの開催が決定した。世界からの期待が市民、子どもたちの大きな夢と誇り、自信につながる。これまでの4年間で、地域の行事などにも参加し市民と対話をしてきた。今後も自治会活動に大きな理解を示し、市民と一緒になって市を発展させたい。

諸見里 ハコモノ中心ではなく子どもたち、教育福祉に重きを置きたい。弱者の声を拾い、市政につなげる。その中で、夜間中学については、沖縄市にこそニーズがある。200人余りの不登校生徒の数は中部圏域でも圧倒的に多い。基礎学力が定着していない子どもたちの再挑戦の場にしないといけない。ハコモノではなく、ソフト面に市の財源を使っていきたい。

 

桑江朝千夫氏(くわえ・さちお)1956年1月生まれ、市住吉出身。日本大卒。市議、県議を経て、2014年4月に初当選。

諸見里宏美氏(もろみさと・ひろみ)1961年11月生まれ。市上地出身。沖縄国際大短期大学部卒。2010年9月に市議初当選。