「オス殺し」細菌 対抗遺伝子が急速に進化 琉球大学、世界2例目確認


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 昆虫が感染すると雄(オス)の子どもだけを成長途中で殺してしまう細菌スピロプラズマ。集団中のオスの割合が1割まで減っていた昆虫カオマダラクサカゲロウが、スピロプラズマに対抗する遺伝子を急速に獲得し、5年後にはオスの割合を4割近くに回復させていたことが、琉球大学農学部の林正幸研究員らの共同研究で分かった。宿主の生殖を操作する細菌に対抗し、宿主が急速に進化したことが確認できた例として世界2例目。英国王立協会紀要(オンライン版)に18日、掲載された。

 スピロプラズマは昆虫の雌(メス)が持つ卵細胞を介して親から子に伝染する。スピロプラズマにとってオスは〝役立たず〟で、メスだけがえさなど十分な資源を得て数が増えると都合が良い。一部のスピロプラズマは節足動物の生殖システムを操作してオスを死滅させることが知られている。

 林さんたちは2011年、千葉大学松戸キャンパスにいるカオマダラクサカゲロウのうち、オスの割合がわずか11%で、メスの7割以上がスピロプラズマに感染していることを発見した。飼育すると感染メスの子どもはメスしか育たなかったが、感染していないメスや抗生剤で除菌をしたメスの子は雌雄ほぼ同率だったことから、スピロプラズマがオスを殺していることが分かった。

 5年後の16年、同じ場所で再調査すると、オスの割合は38%に回復し、感染メスからもオスの子どもが成長していた。実験を重ねると、カオマダラクサカゲロウが、オス殺しに抵抗性のある遺伝子を獲得していたことが分かった。

 「こんなに早く変化するとは想定外」と林さん。今後については「スピロプラズマがこのままいなくなるのか、宿主の抵抗性を打破する能力を身につけるのか、分からない」と話し、身近な自然で今まさに起きている進化的競争に声を弾ませた。