米軍機部品落下シンポ 「大人が声上げよう」 子どものケア巡り議論


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子どもの命を守るため、活発に意見を交わす登壇者たち=4月29日、宜野湾市宜野湾の沖縄国際大学

 米軍普天間飛行場の所属機による部品落下事故が昨年12月に宜野湾市の緑ヶ丘保育園と普天間第二小で相次いで発生したことを受け、子どもの命を守るシンポジウム「なんでお空からおちてくるの? こたえられないわたしたち」が4月29日、同市の沖縄国際大学で開かれた。第2部のパネル討議には緑ヶ丘保育園父母会の知念有希子会長、第二小保護者の呉屋達巳さん、3月まで普天間第二小の教員だった仲本喜美子教諭、子どもの生活を支援する「普天間居場所づくりプロジェクト」の当山なつみさんの4人が登壇。約110人の参加者も次々にマイクを握り、大人が声を上げる責任や子どものケアの在り方などについて語り合った。

当事者の自覚

 「なんでお空からおちてくるの?」。タイトルのこの言葉は、緑ヶ丘保育園の事故発生当日、知念さんが5歳の娘から向けられた問いだ。それまで「基地は不愉快だけど、気にせず過ごしていた」と言うが、事故で娘や自身と同じ境遇の人をつくってはいけないと感じ「現実に目が覚めた」。
 「無関心と諦めが一番怖い」。事故発生後に父母会の一員として10万筆超の署名を集めた知念さんは、基地問題に対して当事者意識の薄い人の姿勢に懸念を示す。「子どもを守るのは私たちしかいないし、声を上げないと何も変わらない。一人一人が当事者の自覚を持って声を上げれば基地はなくなる」と強調した。
 普天間第二小に窓が落下した日の翌朝、呉屋さんは交通安全ボランティアの当番に当たっていた。「子どもたちに『けががなくてよかったね』と言ったけど『大丈夫だよ。心配しなくていいよ』と言えない状況に悔しい思いがした」と振り返る。宜野湾市喜友名出身で、人生の大半を普天間基地のそばで過ごしてきた。「日本を守ってるはずの米軍が沖縄の平和を乱してる現実にとても疑問を感じる。普天間基地は今すぐにでも閉鎖すべきと声を大にして訴えたい」と力を込めた。

気持ち出させる

 部品落下事故の一番の「当事者」である子どもたちとの向き合い方についても、活発に意見を交わした。
 普天間第二小を中心とした子どもたちの居場所づくりに取り組む当山さんは、事故後に児童から「米国もわざと落としたわけじゃないから」「どうせ基地はなくならない」などの言葉が聞かれたことを紹介し「ちゃんと向き合い、大人が動いている姿を見せないと、子どももどんどん諦めの気持ちが強くなっていく」と懸念。その上で「子どもに『大丈夫』と声を掛けることには反対だ。不安な気持ちを抑え付けてしまう。本当に大丈夫な状況になるように大人が真剣に動かないといけない」と主張した。
 聴衆として参加した普天間第二小の男性職員によると、同校は3月末、児童の事故に対する気持ちや事故後の自身の変化などの声をまとめた。同職員は「気持ちを出させないといけない。怖かったら怖いと言っていいと伝えている。子どもの気持ちのケアをできるようにしたい」と語った。
 一方、仲本教諭は「第二小の先生は真剣に悩み、もんもんとしながらこの問題に向き合っている」と話し、先生たちの心のケアも気に掛けた。4月からは北中城小に勤務する。「他校に移り、第二小の状況が異常なんだなと改めて感じた。教員が声を上げづらい世の中にあるが、だからといって声を出さないで済む問題ではない」と現場から訴える必要があることに言及した。

「政治的」とは?

 大人が声を上げる必要性を登壇者や聴衆が主張する一方で、安全な生活を訴えるだけで「政治的」と分類され、時に「偏ってる」とまで言われることに葛藤を抱える声も上がった。
 「政治的」「中立」とは何か。聴衆から出たそんな問いに、同じく聴衆として参加した緑ヶ丘保育園の母親は署名活動を振り返り「私たちの動きは政治的なものではないが、沖縄は米軍が絡むと政治的になる。ただ子どもの安全を守りたい、米軍に約束を守らせたいだけなのに、それがこんなに難しいとは」と困惑した。
 琉大大学院生の女性は「主権者として次世代を担う声を発し、自分がどう生きるかを訴えることは、中立とか政治的とかではない」と断言。知念さんは最後の一言で「政治的とか、軍雇用員が多いからとかの理由で声を出さない県民も多いが、黙っていたら子どもの命は守れない。一人でも多くの声が上がれば、少しは変化があるのではないか」と聴衆に語り掛けた。

「日本政府には沖縄の人の命を守る義務がある」と訴える神谷武宏園長

◆緑ヶ丘保育園・神谷園長報告 「第二小 孤立させぬ」

 第1部では、緑ヶ丘保育園の神谷武宏園長が事故後の父母会の活動や、日米の事故対応への見解を語った。依然として米軍が部品落下を認めず、日本政府が米軍機の飛行を黙認する現状に「沖縄の人々には安全が保障された空の下で自由に遊び、生活する権利があるはずだ。日本政府は憲法にのっとり、沖縄の人々の命に向き合う義務を果たすべきだ」と強く訴えた。
 事故後、保育園上空の飛行禁止や再発防止などを求める父母会は署名活動を実施。2月に締め切ったが今も全国から届き、近く14万筆に達する見込みという。
 一方で事故後、保育園には誹謗(ひぼう)中傷の電話やメールが殺到し、多い日には10~20件に上った。「おまえらがヘリは飛ぶなと言ったら誰が日本を守るんだ」と電話口で怒鳴る男性。署名活動をする父母に対し「これ父母の自作自演なんでしょ?」と疑いの声を掛ける人もいた。神谷園長は「本当にダメージがあった。(デマを流す)ネットの問題も大きい」と指摘した。
 神谷園長は報告の最後に普天間第二小の窓落下事故について触れ「児童が米軍ヘリが近づく度に運動場を避難する状況に心が痛む。本来論点にすべきはどう避難するかではなく、どう上空を飛ばさせないかだ。第二小を孤立させず、沖縄中でこの問題を考えよう」と呼び掛けた。