手順不備、延期勧告招く 奄美・琉球の世界遺産登録 飛び地推薦、IUCN難色


この記事を書いた人 Avatar photo 宮里 努
新緑に覆われた本島北部のやんばるの森=国頭村大国林道

 奄美・琉球の世界自然遺産登録の可否判断に大きな影響力を持つ国際自然保護連合(IUCN)が「登録延期」を勧告した。ユネスコ世界遺産委員会による今夏の登録は厳しい情勢となった。国や県の関係者が「予想外」と口をそろえる。背景には、飛び地を推薦地としたことや、IUCNが環境の価値を重視する北部訓練場跡地を推薦段階で記述せず、国立公園に編入後に世界遺産登録に加えようとした政府の手順や見通しの甘さがある。

 IUCNは候補地が分かれていることを「資産の分断」として指摘する。候補地4島の約3万8千ヘクタールが24の地域に分けられていることが「連続性」がないとし、厳しい評価を下した。

 やんばるの森の東側に位置する米軍北部訓練場が、候補地と周辺地との緩衝地帯の役割を果たせていないことも候補地の虫食い状態を生み、「分断」をつくった要因だ。

 国は2016年12月に返還された北部訓練場跡地の9割を含む約3700ヘクタールを今年7月にもやんばる国立公園に編入し、世界自然遺産登録地に含める手順で作業を進めてきた。

 IUCNは北部訓練場跡地について「推薦地の価値と完全性を大きく追加するもの」と高く評価した。だからこそ、政府の手順に対し「必要な調整をすること」と注文を付け、手続きのやり直しを求めた。実際、京都大の研究チームが今年2月に絶滅危惧種のコウモリを捕獲し、生物多様性に富んだ場所であることを裏付けた。

 登録延期に落胆する一方、歓迎する声もある。西表島で実施されたアンケート調査では、世界自然遺産登録を好意的に捉える人の割合は3割弱にとどまった。観光客の増加が及ぼす生活への影響や環境保全策に疑問を抱く人も多い。やんばる3村でも、ガイド登録制度組織の発足が遅れている。

 登録延期の勧告を受けても、登録の可否を最終判断するユネスコ世界遺産委員会で登録が認められた事例はある。まだ可能性は残されているものの、今夏の登録ができなかった場合、国による再推薦やIUCNの審査、勧告の手順が完了するまでに少なくとも2年はかかる。

 登録を実現するためには、国や県、町村が一丸となって課題に取り組む必要がある。
(清水柚里)