自死の父思い書いた詩 悲しみ乗り越え、前向きな歌に 障害者就労支援センターで訓練 國吉隆哲さん(20)


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曲の完成を喜び笑顔を見せる國吉隆哲さん(左)と、作曲した河野大和さん=3月30日、豊見城市の障害者就労支援センターちいろば(ちいろば提供)

 【豊見城】父親を自死によって亡くした國吉隆哲(りゅうてつ)さん(20)が、沖縄県の西崎特別支援学校高等部3年の時に父親への思いをつづった詩がこのほど、ミュージシャンの河野(こうの)大和さん(33)の手によって歌になった。「ありがとう/あなたが見てくれてるなら/行きたい/生きたい/僕は頑張れるから」。詩には大切な人を失った悲しみや不安を乗り越えて、生きることへの強い意志が込められる。「歌のおかげで一日一日を前向きに過ごせるようになった」。就職を目指す國吉さんにとって、この歌が未来へ進むための心の支えとなっている。

 國吉さんが小学5年生の時、大好きだった父親が突然自ら命を絶った。「最初は夢だと思っていた。後を追いたいと思ったこともあった」と当時を振り返る。気持ちのむらが激しくなり、夜に星を見上げるのがくせになった。高校3年の時、信頼する先生の下で「残像でもいいから会いたい」「今いる家族大切にしたい」と、悲しさと家族への思いを詩につづった。

 就職に向けた訓練を受けている豊見城市の障害者就労支援センターちいろばで、國吉さんは昨年8月、石垣春美所長に詩を見せた。石垣所長はあえて國吉さんに感想を伝えず、河野さんに作曲を依頼した。

 母親が竹富町由布島出身で、山梨県で生まれ育った河野さんは、以前からちいろばに曲を提供するなど交流があった。「難しい依頼だけど、誰かのためになるのなら」と引き受けた。

 詩には、悲しさと共にポジティブな気持ちが描かれており「希望を感じた」と語る河野さん。國吉さんが「いきたい」と記した言葉を、前進を意味する「行きたい」と「生きたい」と二つのメッセージととらえた。メロディーに乗せるよう詩をアレンジし、明るい曲調に仕上げた。

 3月30日、河野さんはサプライズでちいろばを訪問し、訓練生らの前で歌を披露した。自分の詩だとすぐに気付いた國吉さん。涙が止まらなかった。「本当は不安で頑張れるかわからない/でも僕は知っている/沢山の人たちが支えてくれてること」の部分がお気に入りだ。

 歌には「ありがとう」が10回出てくる。國吉さんは「苦しいこともあるけど、家族や音楽の支えがあるから生きていける」と話し「『ありがとう』の言葉は心に永遠に残るからすごいな」とつぶやいた。

 河野さんと國吉さんは「歌を必要とする人たちに聴いてもらいたい」と、希望者にはCDを配布したい考え。問い合わせはちいろば(電話)098(856)2115。 (半嶺わかな)