人口500人の島で唯一の習い事教室 日本最南端の有人離島・波照間島の大泊君子さん 書の心伝え30年 子どもたちに自信


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生徒の習字を温かい目で見守る大泊君子さん(左)。習字のほか、ピアノや踊りも教えている=竹富町波照間

 【波照間島=竹富】日本最南端の有人離島・沖縄県竹富町波照間島で30年以上続く習字教室がある。大泊君子さん(60)の開く教室は、人口500人の島で唯一の習いごと教室だ。「自分が上達したかったから」と軽い気持ちで始めた習字教室だが、これまでに指導した児童生徒は200人を超える。高校のない波照間島。島外に出る子どもたちに自信を付けさせる役割を、大泊さんは担い続けている。

 石垣市白保出身。1985年に波照間中学校に音楽教師として赴任した。前任校では職員間で“習字ブーム”があり、赴任の1年ほど前から自身も日本習字を始めていた。「自分がやりたかった。子どもたちと書いていたら、筆を使う時間が増えるかと思った」と、波照間中の生徒を誘ったのが教室の始まりだ。

 最初は女子生徒5人ほどの小さい教室だったが、保護者からの依頼を受け、小学生や幼稚園児の指導も始めるようになった。その後、波照間島出身の夫・鉄一さん(63)との結婚を機に教師を退職。教室に通う生徒の数は次第に増え、最盛期には50人ほどの子どもたちが通った。

 「波照間の子どもたちは自分を出すことがあまりできないから、もっと表に出せるようにしたい」。そんな思いがこもった教室は、子どもたちが達成感を得られる場所でもあり続けた。

 2人の子が教室に通い、自身も9年間習字を習った波照間卓也さん(34)は「きれいに字が書けることで役立つことも多いし、集中力や忍耐力が付いた。最初は嫌々でやっていたが、島から出ると教室があって良かったと感じる」と話す。幼稚園の時から教室に通う波照間中3年の伊東太郎さん(14)は「これだけ長く続けていてすごいことだと思うし、ずっと続けてほしい」と願う。

 「『継続は力なり』と子どもたちには伝えている。それで指導も続けてこられているのかな」と笑みをこぼす大泊さん。飲食店店主や公民館役員も務め、忙しい日々を過ごすが、子どもたちの成長をやりがいに指導への気力は尽きない。「自分の文字も見つけたいし、まだまだ勉強不足だけれども体が動くうちは続けたい」と力を込めた。
 (大嶺雅俊)