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いじめ実態 知る大切さ 小4自殺第三者委報告書 教訓生かした対策求める


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調査報告の結果を報道陣に説明する第三者委員会委員長の天方徹弁護士(中央)=3月30日、豊見城市役所

 【豊見城】2015年10月に沖縄県豊見城市の小学4年の男児が自殺した問題で、第三者委員会は自殺といじめの因果関係を認める報告書をまとめた。報告書では再発防止策を提言しているが、その中では「(男児の通っていた)小学校のような問題を抱える学校が全国に存在する」「これだけ悲惨な事件が繰り返された今なお、教育現場が変わらない実態を表す」と、過去に全国で起きた事態の教訓が生かされていなかったと指摘する。悲劇を二度と繰り返さないためにも「教育関係者や子をもつ全国の親その他多くの方々に知ってもらいたい」と強く訴えている。

■認識の甘さ

 報告書では、男児に対する「ズボンを下ろされる」や「カーディガンを引っ張られる」など5件の行為をいじめと認定、これらは2015年5月から10月にかけて発生したとしている。

 この時期、男児は熱心だったエイサー団体を退団しているほか、宿題の提出率の低下や、それまで解けていた算数の問題が解けなくなっていたこと、夏休み後半から元気がなくなっていることに、複数の関係者が気づいていたことを記している。

 報告書は、自殺に至る経過には複合的要因があるとするものの、たび重なるいじめが男児を自殺につながる心理状態に陥らせていたと判断。「自死に向かわせた大きな要因の一つにいじめがある」と断じている。

 一方で、報告書は「自死の直前でも、明確なサインがわかりにくい事例は数多い」と、子どもの心理状態を正確に把握し、自殺の危険を周囲が予測する難しさも強調している。

 しかし、第三者委が「最後のSOS信号だった可能性がある」と指摘したのが、15年9月末に実施された市いじめアンケートだ。男児は「いじわるされたりぬすまれたりしていやになっててんこうをしようかなっと思っているんですがどうしればいんですか」と記していたが、結果的に見過ごされた。認定されたいじめについても、学校側は「『いじめ』ではなくトラブル」と認識していた。

 いじめ防止対策推進法では、いじめを「(児童が)心身の苦痛を感じているもの」と定義しており、いじめの判断には「つらい」など本人の感じ方を重視している。報告書では、いじめに対する学校側の認識の甘さを厳しく指摘している。

■断固たる取り組み

 県内のいじめ認知件数は16年度、小学校で前年の約10倍の1万513件、中学校で2倍近い961件と増加し、学校現場が認知に積極的に取り組んでいることをうかがわせる。

 今回の第三者委の市教委への提言でも、いじめを積極的に見つけ出す重要性が強調された。アンケートと教育相談、三者面談、心理検査など、さまざまな手法でいじめを発見するよう求めている。このほか(1)複数の教員やスクールソーシャルワーカーなどで組織的にいじめに対応する(2)いじめに関する研修の実施(3)いじめ防止対策の専任教員の配置―などを提言した。提言に当たり市教委に対し「断固たる取り組み」を求めるとともに、今回浮き彫りになった課題について、教育関係者や保護者ら多くの人に知ってもらうよう訴えている。

 NPO法人おきなわCAPセンターの上野さやか事務局長は「いじめはどこでも起こりうる。いじめが起きる前の予防教育として『あなたは大事だ』と伝え、子どもの自己肯定感を高めることが大切だ」と指摘する。その例として、声掛けを挙げ「ほほ笑んだり、『大丈夫?』と声を掛けたりするだけでも、大切にされていることが伝わる。SOSを受け止められる人は多い方がいい。学校だけでなく、地域でできることはきっとある」と、地域の一人一人が支える重要性を訴えた。
 (半嶺わかな)