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コーチが交際選手にDV 沖縄県内サッカークラブ 「生活全般を支配」


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

沖縄県内にあったサッカークラブに所属していた女性(25)が、コーチの男性(45)から約5年間にわたり継続的に暴行や脅迫を加えられた上、借金を強要されたとして、男性に対して損害賠償請求訴訟を起こし、6月に勝訴していたことが25日までに、分かった。女性は16歳のころから男性と交際を始め、その間、暴力と暴言で生活全般を支配されたとしている。識者は「コーチと選手という上下関係を利用した典型的なデートDVだ」と指摘した。

男性は日本サッカー協会のライセンスを持つ指導者。女性は小学6年生のときにこの男性が代表兼コーチを務めるサッカークラブに入り、高校入学後の16歳のころに交際が始まった。

初めて暴力を振るわれたのは交際から1カ月たったころ。男性宅に通うようになった女性は、米の炊き方が悪いと玄関に突き飛ばされた。暴力は次第にエスカレートし、逃走できないように裸にされ、口にタオルを詰められたまま殴られることもあった。

当時、体のあざなどを不審に思った家族が児童相談所に相談し、女性は一時保護された。しかし女性は、男性との交際や暴力を振るわれていることを話すことはなく、その一方で男性は、女性が児相に保護されたのは、家族が暴力を振るっているからと周囲に吹聴したという。

高校卒業後には、男性に命じられて複数の消費者金融などから借金を重ねた。21歳の時、支援者から長時間の説得を受けて県外へ逃れ、男性の下を離れた。

女性が2015年に提訴した訴訟では、男性側が女性側の主張を全面的に否認し最高裁まで争われた。最高裁は今年6月に男性側の上告を棄却。女性の経済的損害を計216万円と認定し、暴力や暴言などへの慰謝料も合わせて計566万円の支払いを命じた高裁判決が確定した。

男性は取材に対し「客観的な証拠がないのにもかかわらず、原告側の言い分のみを採用した判決で納得がいかない。暴力は振るっておらず、非常に残念な判決だ」と述べた。

DV事案に詳しいみえばしクリニックの長崎文江医師(精神科)は「未成年は大人に比べて支配されやすい。誰でも同じような環境に陥れば被害に遭う可能性はある。子どものうちから何が危険で何が暴力か、人を尊重することとは何かなどを教育することが必要だ」と話した。

◆続く暴力に“まひ”/被害女性、今も借金返済

当時のことについて話す女性=8月

サッカーコーチの男性(45)に対して損害賠償請求訴訟を起こし、勝訴した女性(25)が本紙の取材に応じ、暴力と暴言で支配されていた過去を語った。今も男性から強要された借金の返済に追われる日々を過ごす。女性は「当時は自分で物事を判断できていると思っていたが、今思い返すと恐怖に支配されていた」と振り返る。

女性によると、男性はサッカークラブの部員に対し、技術だけでなく私生活についても厳しく指導した。「何でも教えてくれる父親みたいな感覚だった」という。サッカーに人生を懸けていたという女性が高校生の頃、選手生命が危うくなるほどの大けがを負うと、親身になってくれたのが男性だった。それから心を許すようになり、程なく交際が始まった。

米の炊き方が悪いとして初めて暴力を受けてから、女性は自ら反省点をノートにまとめるようになった。当時を振り返り、「暴力の後は優しくなった。自分が悪いから怒られる。直そうと思った」と話す。それでも暴力が激しくなると、情緒が不安定になり、殴られることに抵抗がなくなった。「ただ、暴力が終わるのを待つようになった」

女性は今回、「自分のような目に遭う子どもが出てきてほしくない」との思いで取材に応じた。現在も男性の存在におびえて沖縄には帰れず、県外で働きながら借金の返済に追われている。現時点で男性から慰謝料などはまだ振り込まれていない。「このまま働いてお金を返すか、自己破産をしないといけないのか。どうすればいいのか…」と途方に暮れている。

<識者談話>長崎文江氏(精神科医)/安全確保し洗脳解除を

大人と子ども、監督と選手という上下関係を利用した典型的なデートDVだ。正義を振りかざして力を見せつけ相手を無力化し、支配する。女性は「お前が悪い」と言われ続けることで「自分が悪くて相手が正しい」と刷り込まれ、マインドコントロールされた。

何度も殴られていると自己評価が下がり、「暴力を受けないためにはどうしたらいいか」だけを考えるようになる。殴られているときは痛みを感じないよう感情を押し殺し、思考もストップする。そのうち判断能力が失われ、何が暴力か分からなくなる人もいる。

マインドコントロールを解くためには物理的に離さないといけない。安心・安全を確保してからでないと、被害者は異常性に気付かない。回復に向かうためには(1)物理的に離れる(2)洗脳を解く(3)自立できるよう力を付け自信を取り戻す―といった過程が必要だ。洗脳しやすくするために孤立させられていることが多いので、信頼できる仲間や居場所をつくることも大切だ。