玉城デニー陣営で創価学会の三色旗を振った男性、孫思う自民党支持者の思い 沖縄県知事選


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 投開票日の9月30日午後9時半すぎ、玉城デニーさん当選確実の報道を受け、歓喜に包まれる沖縄県那覇市の会館で、創価学会を象徴する青、黄、赤色の三色旗が揺れた。「ウチナーンチュのチムグクルが辺野古新基地建設反対の意思を再び示した」。野原善正さん(58)は、体いっぱいで喜びを表すかのように、旗を大きく振り続けた。

創価学会の三色旗を持って玉城デニーさんと肩を組む野原善正さん(左から2人目)=9月28日、那覇市

「学会員が集票マシンに…」 危機感

 学会が支持する公明党は今回、辺野古新基地建設問題の賛否を明言せずに政府の支援を受ける佐喜真淳さんを推薦した。「学会員が集票マシンとして使われる。ウチナーンチュの魂を見せなければ」。危機感に駆り立てられた。

 約15年前、布教を巡って組織と対立したことがあった。反逆者と言われ、職も失った。「本当につらかった。今回も正直、怖かった」と振り返る。今回、親戚からも運動をやめるよう諭されたが、告示日から10回、玉城さんの演説場所で三色旗を振った。同志に深く考えてほしかった。

 野原さんは創価学会の池田大作名誉会長の文章をよりどころとした。沖縄に思いをはせた池田名誉会長は著書の中で「人類史の悲劇がこの小さな島に集約された。ゆえに人類史の転換をこの島から起こすのだ」とつづった。転換とは新基地建設阻止のことだと思った。同志にも物事の本質を深く考えてほしかった。「正しいことをやって叱られるのが法華経の行者だ」。教えが支えになった。

 結果を受けても気は休まらない。「国はまた沖縄を締め付けるだろう。玉城さんは屈せず、最後まで翁長雄志知事の遺志を継いでほしい」と期待を込めた。

池田大作創価学会名誉会長の書いた小冊子「沖縄『世界平和の碑』」の中にある一節

「信仰心を疑われるのも怖かった」

 県出身で東京都在住の住友(旧姓・国吉)ヒサ子さん(66)は「このままでは古里の自然が壊されてしまう」といても立ってもいられず沖縄に来た。「白い目で見られたりするのも信仰心を疑われるのも怖かった」と語る。だが、青く澄んだ辺野古の海が埋め立てられるのが許せず、玉城さんの陣営で運動し、県内の学会員を説得して回った。

「戦争につながる基地はいけない」と話す安里善好さん=2日、浦添市

 住友さんは、公明党が集団的自衛権の行使容認の閣議決定に賛同したころから党の方針に違和感を抱いていたが、思いは公にしてこなかった。だが、池田名誉会長は「人間革命」の中でも沖縄に心を寄せ、核廃絶を含め平和を訴えていた。「現在の公明党にはこの平和思想に反する。真実を見抜いて投票してほしい」と街頭でも同志に訴えた。

 石垣市出身の安里善好さん(82)=浦添市=は学会に加入して59年。8歳の時、沖縄戦では、マラリアで両親を亡くした。自身も発病したが九死に一生を得た。「基地建設は戦争につながる。目をつぶってはいけない」と語気を強める。

 40年間基地で働いたが、「基地建設による経済効果は土台がなく、いつか崩れる」と断じる。日本の安全保障を理由に基地建設の正当性を主張する人もいるが、「本土が沖縄に押し付けたいだけ」に映る。沖縄戦からの差別の歴史が続くことに我慢ができず、党の方針に従わなかった。「国は県に寄り添わず、新知事が苦しい思いをするだろう。でも、県民がついている」と力を込めた。

「孫が大きくなった時に沖縄はどうなっているのか」

 従来と違う投票行動をしたのは公明党支持層だけではない。これまで自民党の推薦する候補者に投票し続けてきた新垣政栄さん(77)=浦添市=は、この数年で「孫が大きくなった時に沖縄がどうなっているのか」と考え始めた。

 70歳近くになるまで建設業界で働き、自民系候補に投票しないと公共工事が受注できなくなると思い、遊説や集会にも足を運んでいた。だが、9人の孫を抱くうちに気持ちが変わった。

 安倍政権が強硬に基地建設を進めるやり方にも怒りを覚えた。今回の選挙は人生で初めて自民党推薦でない候補に票を投じた。

 本紙と共同通信の出口調査によると今知事選で、自民党支持層の24%、公明党支持層の27%が玉城さんに投票した。共通するのは「辺野古に新基地を造らせてはいけない」とウチナーンチュの尊厳を大切にする気持ちだった。
(’18知事選取材班)