沖縄県知事選ファクトチェック 有権者へ正しい情報を 困難伴うネットデマ検証


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 9月30日に投開票された沖縄県知事選の選挙報道の中で琉球新報は、それまで実施していなかった、デマやうそ、フェイク(偽)情報を検証する「ファクトチェック―フェイク(偽)監視」の記事を随時掲載した。スマートフォンの普及に伴いネット上の情報に頼る人が増える中、有権者に正しい情報を発信したいとの取材班の思いから本企画は始まった。企画はネット上でも反響があり、毎日新聞が同企画を取り上げるなど複数の新聞社も関心を寄せている。今後も選挙報道で活用されるべき手法と考えるが、事実かどうかの検証の困難さなど課題にも直面した。ファクトチェック企画を振り返る。(滝本匠知事選取材班キャップ)

琉球新報の一連の「ファクトチェック」報道

 2016年の米大統領選ではフェイクニュースが飛び交い、話題になった。発信元不明の“ニュース”「ローマ法王がトランプ氏支持を表明」「クリントン氏が『イスラム国』(IS)に武器売却」というデマが有権者に与えた影響は少なからずあった。

 ◆背景

 以前から県内では選挙になれば「紙爆弾」とも呼ばれる怪文書で、出所不明だったり根拠が不確かで検証不能だったりする情報が飛び交ってきた。だが最近はその舞台がインターネット上のSNS(会員制交流サイト)に広がり、ほぼ無限に拡散される事態になっている。

 ネット上では、SNSで気軽に情報を転送・拡散できる。そのため間違った情報でも、多数が拡散していくと情報の出元を確認しづらい状況になり、正しい情報であるかのように受け止めが広がる傾向がある。

 中でも国会議員や首長経験者など公職にある、またはあった人物はフォロワー(注目者)数が多く、つぶやいた時の影響力(拡散力)は大きい。公職人がつぶやいているから、と暗黙の信頼性も付いてくる。実際、議員がつぶやいているからという理由で転送する一般の人も見受けられる。

 2月の名護市長選では、名護市で春季キャンプを実施するプロ野球の日本ハムが撤退するという、うわさがネットなどで広まった。正確ではない情報と認識してもあえて記事に書くことまではしなかったが、そのうわさが定着していったことへの反省もあった。

 ◆課題も

 今回の知事選でのファクトチェックで対象にした言説は、「世論調査の数字」「一括交付金の制度創設」「安室奈美恵さんの候補者支援」「携帯料金の削減の公約」の4本。9月8日付から25日付まで断続的に報じた。さらに直接的にファクトチェック記事ではなかったが、検証不能な真偽不明の情報が国会議員などによって大量拡散されている実態をまとめた記事も26日付で掲載した。

 この企画で留意したのは、分析などは交えずに事実を並べて読者に判断してもらうことだった。もう一つ意識したのは、選挙期間中に記事を掲載することだ。有権者に正しく判断してもらうためには、選挙後に検証記事を出しても投票行動にとっては意味がないと考えたからだ。

 ただ検証には困難も伴った。ツイッターで疑惑が書かれて当事者は否定しても、それだけでは検証対象の書き込みが「偽」とは断じられない。ある犯罪を行ったかのような印象を与える書き込みもあったが、対象となる言葉自体は検証がほぼ不可能で、明確に「偽」のチェックができないものも少なくなかった。候補者のマイナスイメージを振りまくだけで、それが事実かどうかは本人が証明すべきだと言い放つ書き込みも目立った。

 ネット上では本紙のファクトチェックの取り組みを評価する声もある一方で、「琉球新報がフェイクニュースだ」などと批判する声もあった。作家の目取真俊さんは自身のブログで「地元紙がこういう検証を行うのは、今の時代に大事なことだ」と指摘している。