宜野湾市の期日前投票所に長蛇の列ができるワケ 投票所増設の要望高まるも〝動員〟懸念


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期日前投票所へ長蛇の列をつくる市民。列は庁舎の外まで続いている=9月27日、宜野湾市役所

 【宜野湾】9月に市議選、市長選、県知事選の三つの選挙が集中した沖縄県宜野湾市で、期日前投票所の増設を求める声が高まっている。台風接近や近年の選挙戦略の変化を受け、9月の三つの選挙はいずれも期日前投票者数が過去最多を更新した。しかし、市内の期日前投票所は市東部にある市役所1カ所のみで、市役所前の駐車場や庁内が混雑し、その日の投票を諦めた人もいた。そのため、西海岸側を中心に増設を望む声が多い。一方、識者からは、各陣営が企業・団体を動員して期日前投票を促している現状に「政策本位ではなくなっている」と指摘している。

■機会の公平性

 9月の各選挙の投票者総数に占める期日前投票者数の割合は、市議選が25・93%、市長選は全体の半数近い44・63%、県知事選も46・47%を占めた。それぞれ前回と比較すると市議選は1・4倍、市長選は1・5倍、県知事選は2・4倍となった。

 市内では期日前投票所が1カ所しかないため、期間中は、市役所横の駐車場に入る車が国道330号まで列を作り、投票所から庁外まで市民による長蛇の列ができた時間帯もあった。市民からは「1時間以上並んで投票した」「混んでいて車が止められないから、選挙が終わってから市役所での用事を済ませる」などの声があった。

 このような現状に、今月の市議会定例会では、一般質問した市議18人のうち、6人が期日前投票所の増設を取り上げた。各市議は投票所が1カ所しかないことによる有権者の不便さ、今後も投票日付近に台風が接近する可能性があることを指摘。市の中央に米軍普天間飛行場があり、西海岸側から市役所へのアクセスが悪い市特有の事情を念頭に「どの地域に住んでいても、公平に投票ができるようにしてほしい」との要望もあった。

 市選挙管理委員会の喜瀬昭夫委員長は「2019年夏に執行予定の参院選に向け、職員の労働安全衛生面も含め、市当局と協議しながら検討したい」と答弁。来年の参院選で期日前投票所を1カ所増やした場合、追加で必要となる人員は13人、費用は約323万円との概算も説明した。

 県内の他の市では、今回の知事選で那覇市が市役所以外に4カ所、うるま市が2カ所に期日前投票所を設置した。那覇市は商業施設への設置も進めており、より有権者が投票しやすい環境づくりを推進している。

 沖縄国際大学の照屋寛之教授(政治学)は「有権者が投票しやすい環境づくりは必要だ。特に宜野湾市のように、普天間飛行場の存在などの事情がある所は、期日前投票所を増やすなどして積極的に対応すべきだ」と強調する。

■政策本位

 一方、各陣営が支持者を動員して期日前投票を呼び掛ける傾向が強まっていることについて、照屋教授は「民意がゆがめられてしまうのでは」と強い懸念を示す。

 今回市長選の期日前投票初日、市役所近くの交差点で開かれたある陣営の集会では、集会の司会者が「市役所の方まで歩いて行きましょう」と呼び掛けると、候補者の旗を持った聴衆が列をなして市役所へ向かい、一斉に期日前投票をする場面もあった。

 照屋教授は「本来、選挙は政策を吟味してから投票するものだが、企業・団体の動員が当たり前になり、選挙の原則である投票の自由や秘密を侵してしまっている。政策をまともに見ないで投票している人も多いのではないか」と指摘する。

 市選管の喜瀬委員長は、市議会で「公職選挙法では原則、投票日当日に指定の投票所で投票しなければならないと定められており、期日前投票は当日にやむを得ない理由で投票できない方のための例外措置だ」と議会で繰り返し答弁。期日前投票の本来の意義を強調した。

 有権者の投票における利便性や政治への関心を高めながら、いかに政策本位の投票を促すか。宜野湾市に限らず、全県的な課題にもなっている。
 (長嶺真輝)