ウリミバエ根絶から25年 再定着なら被害45億 人、モノ移動でリスク増


社会
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 農産物に被害を与える病害虫のウリミバエが、県全域で根絶されてから今年で25年が経過する。県産農産物の代名詞となったマンゴーやゴーヤーも、ウリミバエ根絶によって全国に出荷できるようになった。しかし、海外からの観光客や物の移動は増え、野生のウリミバエが侵入するリスクは高まっている。仮に県内に侵入し、再び定着すれば、年間45億円以上の被害が出ると推定されている。ウリミバエを知らない世代の県民も増える中、今も防除対策が続いている。

ウリ類など農作物に被害を与えるウリミバエ。成虫は体長8~9ミリになる(県提供)

 ウリミバエはゴーヤーやスイカなどウリ類を中心に、野菜や果実に大きな影響を与える害虫だ。1919年に八重山群島で発見され、生息域は県全域に広まった。生果実に産卵して幼虫が果肉を食い荒らす。被害を拡大させないために、沖縄から県外に農産物を出荷することは植物防疫法で規制されていた。

 本土復帰に伴い、72年から根絶実験事業が開始。虫を大量に増殖する施設や不妊化施設を建設して本格的な防除事業を展開した。県全域の根絶が達成され、93年10月29日に植物防疫法を改正、同30日から農産物を県外に出荷できるようになった。

 当時の根絶事業に携わり、現在は再任用されて県病害虫防除技術センターで働く谷口昌弘主任研究員は「本当に根絶できるとは思わなかった」と話す。増殖や不妊化の方法、飼育するかごの開発など、技術研究も同時に進められた。「根絶までは長かったが、世界的な大事業で、何が何でも成功させようと取り組んだ」と振り返る。

 根絶から25年がたち、同センターの大田守也班長は「40代くらいでもウリミバエを知らない人もいる。(知っている人も)放飼した不妊虫を見て、ウリミバエが侵入したと驚く人もいる」と語る。同センターは県内全市町村に、野生虫を捕らえるトラップ(わな)を534カ所も設置し、侵入した野生虫がいないか監視を続けている。不妊化処理をした虫を大量に増殖させ、ほぼ毎週4600万~7200万匹を県内全域に放飼している。

 生産量が全国1位のゴーヤーや贈答用で人気のマンゴーも、ウリミバエが再定着した場合は県外出荷ができなくなる。県が2015年度の出荷額から試算すると、マンゴーは21億8千万円、ゴーヤーも5億円超の被害が出て、全体で被害額は45億円になるとしている。大田班長は「加工品や県内消費を含めると、被害額は(45億円の)倍以上になるかもしれない」と危惧する。

 長年対策を続けてきたが、課題も出てきた。虫を大量に増やし、放射線を照射して不妊化する県の施設は建設から40年近くが経過して移転や立て替えの必要性も指摘される。

 県内は観光業が好調で、クルーズ船の入港も増えた。大田班長は「海外からの人や物の移動が増えて、ウリミバエが再侵入するリスクは高まっている」と語り、「根絶後も継続的な対応が必要だ」と理解を求めた。