教育

灘中高・木村達哉先生が教える「成績を上げるにはどうしたらいい?」 

 琉球新報社と「おきなわ学びのネットワーク」の主催で10月28日、兵庫県の灘中学・高校の英語教諭、木村達哉さんを招いた講演会「入試に役立つ指導法と勉強法」が那覇市の興南学園で開かれました。大学入試センター試験が2020年に廃止され、21年から新たな大学入試制度が始まります。講演会では新たな大学入試制度の問題点や成績アップの方法などが語られ、県内の教員や保護者ら約150人が熱心に耳を傾けました。

大学入試改革の問題点

 今、僕は灘高校1年生の担任をしています。初めに、この高校1年生たちが今後直面する新たな大学入試制度の問題について話をしたいと思います。


「入試に役立つ指導法と勉強法」と題して講演する灘中学・高校の木村達哉氏=那覇市の興南学園

 文部科学省は大学入試改革の一環で、2021年1月に始める大学入学共通テストに英語の民間検定試験の導入を決めました。英語4技能(読む・聞く・話す・書く)を評価し、グローバル社会で活躍できる力の育成を目指すとしています。

 受験生は、大学入試センターが認定した民間試験を高校3年生の4~12月の間、事前申請の上で2回まで受けられ、成績は大学に送付されます。23年度までは従来型のマーク式試験と併存し、24年度以降は認定試験に一本化される見通しです。

 しかし実際のところ、今後どうなるのか具体的な見通しが立っていないのです。例えば、文部科学省は思考力を問う問題を作るなどと言っていますが、思考力を養うために最も必要なのは知識なのです。知識のない子が思考することはできません。これまでのセンター試験は知識偏重だと批判されてきましたが、知識さえも付けられない子がどうやって考えるのかという問題があります。

 今年の春に大学入学共通テストの英語試行調査が行われましたが、全国平均が驚くほど低かったのです。つまり入試としては機能しないということです。共通テストが機能しないということは、2次試験で合否が決まるということになります。2次試験は今まで通りの出題が行われますので、大きな変化はありません。そこで文科省が共通テストの内容を簡単にしたとします。するとどうなります?今度は差が付かなくなるのです。



民間の資格・検定試験に地域格差


 僕は英語教員ですので、英語に関して説明します。2020年度以降は共通テストの英語の試験と共にベネッセコーポレーションのGTECや、英検など民間の資格・検定試験が導入される見込みですが、今のままだと破綻するかもしれません。

 英検に関しては文科省から公平性が薄いという意見が出ていますので、おそらく多くの大学がGTECを中心に受験するでしょう。TOEFLに関しては、東京大学の学生の平均点が約60点。京都大学は58点なんですけども、高校生が受けると全く点数が取れません。そんなものを認定試験として取り入れるのは極めて不適切です。さらに受験費用だけでなく、地方の高校生は会場まで行く旅費も必要です。つまり都市部の子たちの方が圧倒的に有利なのです。

 またスピーキング試験に使用するタブレットが全受験生分必要です。現在、約55万人がセンター試験を受験しています。55万人分のタブレットと試験会場の確保が必要ですが、準備は整っていません。

 先日、東京大学は英語の民間試験について、成績提出を必須としないと発表しました。高校側が受験生の学力を認める内申書を大学に提出すれば良いとしたのです。つまり文科省に反旗を翻したのです。

 新たな入試制度の導入が2年後に迫っているのに、多くの問題を抱えているという状況なのです。1番の被害者は子どもたちです。一方で、私たち教員は入試制度がどんな風に変わっても、どんな問題が出ても生徒が解けるように指導してあげることが仕事です。



成績を上げる仕組み

 次に成績を上げるメカニズムを説明します。

 僕は英語教師です。灘校は中高一貫校なので、生徒たちは中学入学から高校卒業まで僕1人からしか英語を教わりません。卒業時に生徒が「英語が苦手」と言えば、それは100%僕の責任なのです。

 さて、授業を受けたぐらいで英語ができるようになれば苦労はしません。授業受けた後、ひたすら繰り返すのです。ピアノや三線だって、教えてもらったことを家に帰ってひたすら繰り返すから、ある日いきなり弾けるようになったり、弾けなかったフレーズが弾けるようになるのです。

 つまり、成績を伸ばすのは授業時間ではないのです。授業は「納得の時間」です。生徒に「なるほど、こうすればできるようになるのか」と納得してもらうことが大事なのです。

 教員は生徒が家に帰ってから勉強したくなる仕組みをちゃんと用意しなければなりません。それが宿題だったり、次の日の確認テストの勉強だったりするのです。宿題を出さなければおそらく生徒は家で勉強しないのです。

 僕は50分の授業の復習を家で1時間も2時間も掛けてやれとは言っていません。15~20分でいいのです。人間の脳はどんどん忘れていきます。毎日の復習をせずに、定期テスト前にまとめて勉強しても成績は上がりません。

 僕は50分の授業の中に10~15分の自習を毎日必ず入れています。まずは自習の仕方を教えてあげないと、自習なんてできるわけがないのです。

 授業を大切にしなさいと昔から言われていますが、授業を大切にするということはどういうことか。授業を受けた後にちゃんと復習・自習をすることです。自習の後、私たち教員は適切に試験をしてあげないといけません。大人だって試験があるから練習するのです。授業と自習をセットにして、生徒の成績を伸ばしていくということになります。



手本となる大人になる


多くの教員や保護者の前で話す木村達哉氏

 沖縄の教員の皆さんを見ていて僕は、熱心すぎるのではないかと思っています。成績が伸び悩んでいる生徒や進学を希望する生徒に対して、先生方は早朝のゼロ校時や放課後の補習を頑張っています。しかし、放課後の補講で仮に100個英単語を覚えたとしても、生徒が家で復習・自習をしなければ次の日には忘れますよ。これでは成績は伸びません。

 熱心に指導するのは簡単です。生徒たちに寄り添うふりをすればいいのです。しかし、生徒たちを早朝から遅くまで拘束すると、家に帰って自習する時間がどんどん減っていきます。ですから僕は必要最小限度の補習しかしません。生徒たちには口を酸っぱくして「自習しろ」と言い続けているのです。生徒が家で授業で習ったことを再現できるシステムを作ってあげないといけないのです。

 さらに問題なのは、補講を受ける生徒だけでなく、教員側も疲弊してしまうことが非常にまずいのです。人の前に立つ教員はワクワクしていないとだめなんですが、沖縄の先生方は熱心すぎてプライベートの時間まで削って頑張っている方が多い。師弟関係の基本は、師を見て弟が「こんな人になりたい」というのが一番の条件です。大人がワクワクして生きていかなければ子どもに良い影響を及ぼしません。教員や親が楽しみながら生きているのを生徒たちは見ています。

 また保護者の皆さんに伝えたいのは、子どもの成績が悪いからといって、とりあえず塾に行かせようとするのではなくて、ちゃんと成績が上がる仕組みを知っておくことが大事なのです。



家庭はリラックスの場

 同時に、家庭で一番大切なのは生徒にリラックスさせることです。生徒たちは毎日、教室の椅子に6時間座るんですよ。人間関係に悩む子もいる。学校に通うだけでも戦いなのに、家に帰ると親から「勉強しなさい」とうるさく言われる状況は最悪です。おうちではリラックスさせないとだめなのです。

 子どもが家で勉強しないのは、教員が家で復習・自習するシステムを作っていないからです。家で自習できなくても最低限、帰りのバスや昼休みなど、どこかでは自習をしているという状況を学校ぐるみでシステムとして作らないと、そりゃあ生徒は勉強しません。 



国を担う人材を育てよう


「官僚に沖縄出身の人がいたら、基地問題はもうちょっとスムーズに解決するんじゃないか」と話す木村達哉氏

 最後に沖縄の未来について考えてみたいと思います。

 1995年に神戸は巨大な地震に見舞われ、約6千人の方が犠牲になりました。灘校の体育館も遺体置き場になりました。しかし震災から3年後には、新しい町として復興しました。

 2011年には東北地方で東日本大震災が発生しました。震災から7年が経過したが、東北の沿岸部ではいまだに横倒しになったままの建物があります。どうして、神戸と東北はこんなに差があるのか考えていました。

 早い話が、日本を動かしている霞ヶ関の官僚に兵庫県出身者が多いからです。一方、東北出身の官僚は少ないです。福島県出身の官僚もほとんどいません。

 日本の大学の中で官僚養成を目的に創設された大学があります。東京大学です。僕は都道府県別合格者ランキングを調べてみましたが、各都道府県の東大合格者ランキングと各県の官僚の数は合致しているのです。県で問題が生じた時に、東大を卒業して官僚となった県出身者が県を助けてくれる可能性があるのです。

 ちなみに沖縄は東大合格者ランキング47位です。そして44位からはずらりと東北の6県が並びます。原発問題を抱える福島では、3~4年前から県の教育委員会が年2回、勉強合宿を実施しています。合宿以前は、福島県出身の東大合格者は少ない時で1~2人、多い時で5人ぐらいでしたが、今年は16人が合格しました。

 私たち大人は子どもたちがどこの大学に入ってもうれしいものです。だけれども、県をより良くしてくれる人材をいかに育てるかという観点に立てば、東大に入るということは重要です。県で1人が官僚になっても力を持ちません。多人数いるから力を持つのです。

 国と県が基地問題で対立しているのを見るたびに、僕は沖縄から東大へ行く子がいっぱい出てきたらいいと思っています。官僚に沖縄出身の人がいたら、きっと基地問題はもうちょっとスムーズに解決できるんじゃないかなと考えています。

 2014年から「沖縄学びのネットワーク」を作り、高校生無料セミナーを始めました。もちろん東京大学なんて全然縁が無いという子たちも参加します。その子たちに対しても、「もしも可能性があるのであれば、沖縄県をつくるほうに回ったらどう?」という話をさせていただくようにしています。

 1、2年で活動が実を結ぶことはないと思いますが、僕が生きているうちに沖縄出身者が首相になればいいなと夢を描いているのです。思ったりはしている。ウチナーンチュの子どもたちには期待しています。

 僕は単に入試に合格するだけでなく、日本をあるいは県を、もしかしたら世界を変えていくような人材を学校ぐるみで作っていくというプライドを持って教員をやっています。

 沖縄の教員の皆さんは、沖縄の子どもたちが国をつくる立場になることが、今の沖縄の状況を一気に変える可能性を持っているという認識を持っていた方がいいと思います。沖縄出身の人たちが国側に回る日が来れば、きっといい時代になると思っています。