効率的治療に期待 沖縄ゲノム解析 新たな病気要因特定も


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琉球大学大学院医学研究科の前田士郎教授

 島しょ県の沖縄が、本土とは異なる特有の遺伝的背景を持つとの指摘は以前からあった。ただ、県内では大規模なゲノム研究はこれまで行われていなかった。県民を対象に解析することで、県民に役立つゲノム情報の発見が期待できる。さらに、遺伝学的に特徴がある集団からは、比較的少ないサンプル数で病気を引き起こす新しい要因を特定できる可能性があるという。

 人の顔かたちや体つきなど生まれ持った性質は、遺伝情報によって決まる。多くの病気の発症には、個人の生まれながらの体質と、生活習慣や加齢といった環境因子の両方が絡み合って起きる。病気のなりやすさ、薬の効き方も遺伝子の個人差が関係している。こうした情報をあらかじめ知ることができれば、一人一人に合った最適の治療や予防ができるようになると考えられている。

 研究責任者の琉球大学大学院医学研究科の前田士郎教授によると、日本人の標準ゲノム配列は分かっているが沖縄の人に特化した配列はまだ判明していない。より効果的な予防や治療を実現するには、まず県民のゲノム情報を知ることが不可欠だ。

 研究は全世界の人に有効な発見につながる可能性もある。ゲノム研究は欧米を中心に大規模に行われてきており、さまざまな病気のなりやすさに関わる原因遺伝子が特定されてきた。現在、さらに新しく見つけるには数万単位のサンプルが必要となる。ただ、遺伝学的に特徴がある集団では病気の発症を10倍高めるような遺伝型が残っていることがあり、このような場合には2千~3千ほどのサンプルでも要因を特定できるとされている。

 前例もある。デンマーク領グリーンランドの先住民族イヌイットのゲノム解析では、2500人ほどで2型糖尿病に関連する原因遺伝子の一つが特定された。沖縄も地域ごとに特徴ある集団を形成している上、かつて長寿日本一を支えていた高齢世代と、欧米型の生活習慣が根付いた働きざかり世代が混在しているため鮮明な結果が得やすいとみられる。

 前田教授は「研究を進め、個人の体質に合わせた予防や治療を実現することで、沖縄の健康長寿復活にもつなげていきたい」と話している。