移植対象サンゴは大型と希少種のみ 小さなサンゴや海草生き埋めに 識者「移植対象の基準に科学的根拠はない」


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
海草藻場が広がる土砂投入区域=2013年4月、名護市辺野古の水深約1メートル(撮影・花城太、金良孝矢)

 安倍晋三首相が6日、NHKのテレビ討論番組で「土砂投入に当たって、あそこのサンゴは移植している」と発言したことが波紋を広げている。沖縄防衛局は移植対象のサンゴを1メートル以上の大きさや絶滅危惧種の希少種のみに絞っており、その他の小さなサンゴは移植されないまま埋め立てられているのが現状だ。識者は「防衛局が決めた移植対象の基準に科学的根拠はない」と指摘する。安倍首相は環境保全に努めていると強調したが、海草藻場は移植せずに埋め立てを進めており、識者は「サンゴ以外にも多くの生物が生き埋めにされている」とみている。

 安倍首相の発言後、インターネットでは「発言はでたらめだ」などの指摘が相次いだ。一方、沖縄防衛局は「あそこ」というのは埋め立て区域全体だとして安倍首相の発言は間違いではないと主張する。

 埋め立て海域全体で防衛局が移植対象とするサンゴは約7万4千群体だが、現在土砂投入が進む「埋め立て区域2―1」には防衛局が移植の対象とする大型や絶滅危惧のサンゴはない。これまでに移植されたのは、別の海域に生息していた絶滅危惧種のオキナワハマサンゴ9群体だけだ。

 埋め立て区域2―1には小さなサンゴが多く生息し、本島周辺では最大の海草藻場が広がる。海草は「海のゆりかご」と呼ばれる多くの生物のすみかで、国指定天然記念物のジュゴンの餌でもある。2013年に本紙記者がこの海域に潜水した際、サンゴのほか、モズクやタツノオトシゴが確認できた。

 日本自然保護協会の安部真理子主任は「希少な海草は生き埋め状態で、最低限の環境保全もできていない」と指摘した。サンゴの移植については「そもそも大きさや、生息する水深で区切って移植するか判断することがおかしい」と強調した。

 菅義偉官房長官は8日の記者会見で首相の発言について認識を問われ「環境監視等委員会の指導、助言を受けながら適切に対応していくということで全く問題はない」と明言を避けた。本紙などが区域内でサンゴの移植がなかったと報じたことについては「(報道に基づいた質問に)答えることは政府としてしない」と一顧だにしなかった。

 沖縄防衛局は9日、本紙の取材に対し、埋め立て区域内に生息していたサンゴ9群体や砂浜に生息する底生動物を区域外に移動したとした上で「方法を環境監視等委員会で説明し、委員の指導助言を得ながら進めてきた」と手法の妥当性を強調した。
 (清水柚里)