社会
沖縄フェイクを追う~ネットに潜む闇~

「国策」が生む差別 問題とどう向き合うか 連載「沖縄フェイクを追う ネットに潜む闇」〈17〉~ヘイトの増幅❺

沖縄弁護士会に送られた大量懲戒請求書を巡り「差別的言論」だと訴えた天方徹会長(右から2人目)=2018年7月25日、沖縄弁護士会館

 「会員弁護士のバックグラウンドだけで懲戒を請求した。個人への攻撃だ。強く非難しなければならない」

 2018年7月25日、記者会見を開いた沖縄弁護士会の天方徹会長は、沖縄弁護士会に大量の懲戒請求書が送られてきたことを明らかにした。そして懲戒請求をした人々に対して「ヘイトスピーチと同種の行為だ」と強く非難した。

 17年11月と12月、沖縄弁護士会に送られた懲戒請求書は961件に上った。いずれもブログ「余命三年時事日記」を見た読者から送られたものだ。懲戒対象は当時の弁護士会会長と、同会に所属し、朝鮮にルーツがある在日コリアンの白充(ペクチュン)弁護士だった。

 大量の懲戒請求は全国各地の弁護士会にも送付されている。中でも、沖縄弁護士会は在日コリアンの白氏らが対象になっている点などを挙げ、声明で「差別的言論」だとしている。全国の弁護士会が出した声明よりも踏み込み、請求者らに抗議した。大量の懲戒請求が沖縄弁護士会に届いて1年経た昨年12月初旬、天方氏が取材に応えた。

 「自己満足のおかげで傷ついた人がいるという結果は重大だ。懲戒請求制度を不当に利用することは弁護士自治すら危うくする」

 天方氏は懲戒請求制度を利用して、特定の弁護士を攻撃した請求者の行動は日本の弁護士自治への重大な挑戦だとの認識だ。

 他国では弁護士の管理、監督に国が関与している所もある。だが、日本では弁護士自治が認められ、弁護士会が各弁護士を律し、懲戒を科すことができる制度になっている。そのため、弁護士は国などの権力と対峙(たいじ)することができている。天方氏は弁護士自治の根幹に国民が誰でも請求することができる懲戒請求制度があるとの見解を示す。

 白氏は自身が通っていた朝鮮人学校の近くのガードレールに「朝鮮人ばか」「死ね」と書かれていたことを今でも覚えている。差別は幼少期から現在まで繰り返し受けてきた被害だ。

 今回、大量に懲戒請求が送りつけられた発端は、国が朝鮮人学校に対する自治体の補助金の再考を求める通知を出したことにある。通知に対して日本弁護士連合会が会長声明で反対し、弁護士が懲戒請求の対象となっていった。差別的だと批判されている国の政策が匿名性のあるネットを介して、個人の差別意識を増幅させた形になっている。

 白氏は普天間爆音訴訟や辺野古アセス違法確認訴訟などの代理人を務めていた。国家の政策が個人の差別意識に結び付いた在日朝鮮人への差別問題は沖縄に差別が向かう構造とも似ていると感じている。白氏は請求者だけではなく、それ以外の多くの人に考えてほしい問題だと思っている。

 「(請求者を)ネットの影響を受けた変なやつらだと突き放して、問題を終わらせてほしくない。自分はこの人たち(請求者)と同じような偏見を誰かに向けていないか。その視点を持つことが問題の本質だ」

 懲戒請求を受けた全国各地の弁護士が請求者に対して損害賠償を起こす動きもある。だが、請求を受けた当事者の一人でもある沖縄弁護士会所属の白氏は、懲戒請求者に対して訴訟を起こすことは現時点では考えていない。差別をなくすには請求者への追及よりも全ての人への問い掛けこそ大切だと思っているからだ。

 この原稿を書いていた20日、新たな情報が飛び込んだ。ブログ「余命三年時事日記」がこの日の午前中から見ることができなくなっている。「表示できませんでした」というメッセージだけが画面に表示されている。12年ごろに開設されたとみられるこのブログは、公開停止もしくは閉鎖されたようだ。

 (ファクトチェック取材班・池田哲平) (おわり)