〔未来を築く 2.24県民投票〕4 佐喜眞美術館館長・佐喜眞道夫さん 人間の根源 考え続け


社会
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佐喜眞美術館でインタビューに答えた館長の佐喜眞道夫さん=6日午後、宜野湾市上原

 宜野湾市上原にある佐喜眞美術館の上空を米軍機が飛び交う。美術館の屋上からは米軍普天間飛行場が見える。軍事力を象徴する飛行場の目と鼻の先で、館長の佐喜眞道夫さん(72)は、美術作品を通し人間の在り方や沖縄戦を問い掛けてきた。

 県民投票実施の是非を巡って宜野湾市は揺れた。基地の重圧に悩む市民が投票権を行使できない可能性があった。24日の投票まで、あと15日。佐喜眞さんは「命をどう守るかという視点が重要だ。孫の世代まで考え、1票を投じたほうがよい」と訴える。

 医師だった父が病院を開業した熊本で育ち、大学時代を東京で過ごした。沖縄に対する偏見が根強く残っていた時代だった。差別への憤りを募らせる中で、沖縄に暮らす祖母と叔母から聞かされた沖縄戦をどう表現するか考え続けてきた。

 原爆投下の惨状を描いた「原爆の図」で知られる丸木位里・俊夫妻が描いた「沖縄戦の図」に衝撃を受ける。同作品を展示する場が沖縄に必要だとの思いが募り、普天間飛行場内にあった先祖の土地を取り戻し、佐喜眞美術館を開館した。1994年のことだ。

 人間や戦争について深く考える場所―。これが佐喜眞美術館のテーマだという。「人間の根源的な部分を考えるきっかけを与えることが芸術の仕事だ」と語る。

 開館から今年で25年になる。平和を希求する空間から普天間飛行場返還・移設問題を見つめてきた。館内には2004年8月に米軍機が墜落した沖縄国際大の建物の写真パネルもある。「起きるべくして起きた事故だった」と振り返る。

 昨年12月、新基地建設が進む辺野古沿岸海域で土砂投入が始まった。24日の県民投票は埋め立ての賛否を問う。「選挙で何度も民意は示されたではないか」と疑問も感じつつ、県民投票の実施を求めて署名を集めた若者たちに注目してきた。投票全県実施を訴え宜野湾市役所の前でハンガーストライキを決行した元山仁士郎さんに「魂が揺さぶられる思いがした」と語る。

 全県実施が決まり、佐喜眞さんは「もう一度民意をはっきり示す」と思いを新たにする。朝鮮半島の政治情勢も以前とは変わりつつある中で、果たして本当に辺野古に基地が必要なのか佐喜眞さんは問う。その上で「政治的、軍事的ではなく『人間の根源的な在り方』に基づいて1票を投じてほしい」と呼び掛けた。
 (砂川博範)