本当に代替施設が必要なの? 在沖海兵隊 地理的優位低い


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 米軍普天間飛行場の危険性除去に向け、県は辺野古移設には時間がかかるとして県外・国外移設を求めている。一方、政府は「代替施設」が沖縄県内に必要だとの立場だ。普天間飛行場の位置付けや海兵隊の実態をまとめた。

  政府はなぜ代替施設が必要だと説明している?

  政府は朝鮮半島と台湾を「潜在的紛争地域」と呼び「抑止力」の重要性を主張し、辺野古移設の必要性を説いてきた。抑止力の維持と沖縄の基地負担軽減とを平行して進めるには「辺野古が唯一」との考えだ。

  県はどう捉えているか。

  海兵隊の沖縄駐留や沖縄への基地集中に地理的な必然性はないとの立場だ。「日本本土の反米軍基地感情の沈静化のため、基地負担の沖縄へのしわ寄せでつくられたものだ」と指摘している。日本本土に駐留していた海兵隊が沖縄に移ってきた経緯があるためだ。

  どのような経緯?

  朝鮮戦争勃発を機に再編成された米海兵隊の第3海兵師団は1953年から岐阜県と山梨県に駐留していた。本土で住民の反対運動があり、米国の統治下だった沖縄に移転した。本土で駐留米軍の大規模な縮小が進む中、厚木基地や岩国基地からヘリ基地機能が普天間飛行場に移り、過密化が進んだ。軍事的な必要性よりも政治的な理由で沖縄への海兵隊移駐が進んだ。

  歴史はそうだとしても、現在は地理的優位性があるのではないか?

  まず在沖米海兵隊が緊急出動する場合、長崎県佐世保を母港とする強襲揚陸艦に迎えてもらう必要がある。特に朝鮮半島有事を想定した場合、いったん南下した後に北上する「遠回り」問題が発生する。佐世保から韓国へ直接向かった場合、8~12時間で済むことから「九州の方が朝鮮半島に近く、地理的に優位だ」と指摘される。そもそも海兵隊はローテーション配備で1年の半分ほど駐留地を離れて揚陸艦で海上を巡回している。

  海兵隊が北朝鮮から日本を守ってくれているのでは?

  北朝鮮を巡って注目されるのはミサイル問題だが、ミサイルを迎撃するのは基本的に陸軍と空軍だ。反撃は主に近海を航行する潜水艦で海軍が担う。さらに朝鮮半島の緊張緩和に向けた動きが加速しており、今月末にはベトナムで米朝首脳再会談が開催される。ウィリアム・ペリー元米国防長官も朝鮮半島の非核化が実現すれば「普天間飛行場を置く根拠もなくなるだろう」との認識だ。

  海兵隊の役割は尖閣問題や台湾有事への対応もあるのでは?

  台湾海峡で中国と台湾の間で紛争が起きた場合、主に米国は海軍や空軍が応戦する。海兵隊は「海峡」での出番は少ない。台湾が20万人余の陸上兵力を有するのに対し、輸送による限られた兵力で中国が台湾に上陸戦を仕掛ける可能性は低いとされる。

 尖閣有事が発生した場合、海兵隊が急行し「奪還作戦」を実施するという主張がある。しかし日米両政府が合意している日米防衛協力の指針(ガイドライン)では島しょを含む陸上侵攻に対して自衛隊が一義的な責務を負い、島しょ奪還は必要なら自衛隊が行うと定める。米軍の役割は「自衛隊の作戦を支援し補完する」にとどめている。

 米国が日本を防衛する義務を定めた日米安保条約第5条が尖閣有事にも適用されるが、武力攻撃に対処する場合でも、米軍が米国憲法の手続きに従うことを前提にしている。武力行使には米国議会の承認が必要だ。「他国の無人の小島」を巡り、米国と並ぶ大国となった中国を相手に武力行使することが現実的にあり得るのか。そのために米大統領が承認を求めて議会が応じることは容易ではない。(おわり)