部活の外部コーチに報酬は必要? 教師の長時間労働をどう解消する?


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 「顧問の先生の負担軽減のため、週末の部活の指導を外部コーチにお願いしています。コーチも自分の時間を割いて指導してくれているので、報酬が必要だと思います。ですが報酬を払うことになると、部費が高くなってしまいます」。中学2年生の息子を持つ女性=那覇市=から取材班に意見が寄せられた。教員の長時間労働の原因の一つが部活動指導だと言われている。それを解消するために外部指導者を活用し、部費から報酬が支払われた場合、保護者が家計に負担を感じることにもなりかねない。

 外部指導者に指導を依頼した場合、報酬は支払わなければならないのか。支払うとするなら、誰が負担したらよいのだろうか。

 女性の息子はテニス部に所属している。中学校はテニスコートが1面しかないため、土日は校外のコートを有料で借りて、外部コーチに指導を依頼している。コート代やコーチへの報酬は保護者会が徴収する「部費」で賄っている。保護者会が前年度までにためたお金を切り崩し、本年度は部費を月2千円で抑えているが、来年度は月5千円程度になりそうだという。

 「無料で教えてもらうと生徒と教える側が対等ではなくなってしまい、生徒や保護者はコーチに意見することが難しくなるので、報酬は必要だ。でも部費が高くなってしまうと家計への負担が大きくなる。低所得世帯の子どもは部活ができなくなる。これは何とかできないでしょうか」と女性は訴える。


◇部活負担 誰がどこまで

 「部費」には2種類ある。一つは学校が金額を決めてどの部活からも一律に徴収するもの。この中学では部活動に所属している生徒は1、2年生が年間5千円、3年生は年間3千円の部活動費を学校に支払う。各部活に人数分のお金が分配され、備品や消耗品などの購入に充てられているという。もう一つは部活ごとに徴収するものだ。

 学校から分配される活動費で足りない分について、保護者会と顧問が相談して部活ごとに徴収している。追加徴収分は部活によって異なる。女性が指摘している部費はこの部活ごとに徴収しているものだ。この学校の校長は「保護者会の決定事項であれば学校としては何とも言えないが、学校の決まりでは外部コーチはボランティアで、報酬が支払われているのはおかしい」と話した。那覇市教育委員会も「外部コーチの報酬への補助に関する問い合わせはあるが、外部コーチはあくまでボランティアで協力してもらっているもの。補助はない」と説明する。

 公立校の教員は月給の4%が「調整額」として給料に上乗せされる代わりに時間外手当は支給されない。つまり、授業終了後の部活動指導は教員の「ただ働き」によって成り立ってきた。外部指導者も「ただ働き」でいいのだろうか―。

 文部科学省は教員の多忙化を解消し、専門的な指導を行うために学校外の人材を活用した「部活動指導員」を2017年度に制度化している。外部指導者が実技指導だけでなく、学校外での大会への引率、部活動の管理運営、事故が発生した場合の現場対応―など顧問と同じような職務を行うことができるようになる。

 国は配置を促進するため、報酬や交通費などを補助する事業を18年度から始めた。国、県、市町村で3分の1ずつ費用を負担する。この制度に乗せれば、保護者に負担がかからずに報酬を出すことができる。

 県は本年度は事業を実施していないが、19年度の実施に向け調整・準備している。実施校数や人数は現在調査中だが、県は「予算に限りがあり、全校配置は無理だろう」としている。

 教員の長時間労働を解消する切り札のように思える制度だが、自治体は慎重姿勢だ。那覇市教委は「やらなければならない事業だと認識しているが、研修も必要で来年度実施は難しい。従来の外部コーチよりも責任が増す。競技の技術指導ができ、スポーツ科学の知識もあり、学校との連携もできる人材を探すのは容易ではない」と課題を挙げた。

 (玉城江梨子)


◇制度設計なく規制及ばず

内田良名古屋大准教授

 内田良名古屋大准教授の話 外部コーチが指導するから、部費が高くなると聞き、大変驚いている。今回のテニス部の話は「勝ちたい」と保護者が過熱してしまった事例だろう。行政や学校からすれば「保護者が勝手にやっていること」。でもそれは保護者が悪いのではなく、そこに規制がかからないことが問題なのだ。

 学習指導要領で部活動は教育課程外の自主的・自発的な活動だと位置づけられている。他方、学校教育の一環でもある。このようにグレーゾーンなのに、画一的な制度設計がないので規制が効かない。だから教員も保護者も過熱してしまう。それが昨今の「ブラック部活」問題につながっている。

 過熱させないためには、練習日は週に3回にして、大会は年に1回にするなど制約を設ける必要がある。その上で、学校の部活は教育の範囲内で親しむ「居場所型」にして、強くなりたい「競争型」は民間のクラブチームに任せるという形にしていく必要があると考える。 

(教育社会学)

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