心と心つなげたロボ 身近材料で可動フィギュア 渡口佑弥さん(恩納村)


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これまでに作製した模型を前に笑顔を見せる渡口佑弥さん

 【恩納】世界を守るため悪と戦うロボット。乗り込み型や操縦型など多種多様なロボットが映画やアニメの世界で活躍する。沖縄県恩納村の渡口佑弥さん(26)は身近な材料でロボットフィギュア(模型)を作り上げる達人だ。設計図はなく、頭の中のイメージだけでゼロから作り上げる。関節は全て可動し、発光する作品もある。模型専門誌に応募した作品は既成概念にとらわれないスタイルが高く評価され、2010年、11年に銅賞を受賞した。「少し手先が器用なだけです」と照れくさそうに笑う。

 渡口さんの模型制作は作りたいキャラクターの観察から始まる。アニメやイラストを見て、部品ごとに頭の中に設計図を描いて少しずつ具現化していく。テレビで1秒しか映らなかった物でも緻密に再現する。材料はティッシュの空き箱や割り箸、つまようじなど身近な物しか使わない。「失敗しても気にしなくていいから」。2~3カ月かけて1体を制作する。

 幼い頃から手先が器用だった。母の昌恵さん(58)によると1歳ではさみを使って遊んでいた。「絵を描くのも上手だった。チラシを器用に切り抜いて遊んでいました」。しかし幼稚園の頃、いじめに遭った。きっかけは分からない。「何かひどいこと、悪いことをしたわけでもない」。小学校入学後もいじめは続いた。次第に心を閉ざし、小中と不登校になった。

 15歳の頃、元教員で当時、教育相談員だった照屋君子さん(75)と出会い、交流を重ねるうちに少しずつ笑顔を取り戻した。照屋さんの勧めで村内の祭りや文化展に作品を展示するようになった。昨年の恩納村文化展で来場者が口々に「すごい」と見つめる様子に渡口さんは驚いた。「好きなことを極めれば特技になると知った」。照屋さんは「私は広報役。しっかり宣伝しないといけない」と笑う。

 渡口さんは昨年から新しい取り組みを始めた。これまで自身の頭の中にだけで留め置いていた設計図を紙上に書き出した。紙には直線に曲線、細かい指示が描かれている。「ペーパークラフトにできないかと思って。作品をコミックマーケットに出展して、クラフトを販売したい。でも、まずは個展を開いてみたい」と夢を描く。一人きりで作り上げてきた千体を超えるロボットが社会を少しずつ広げ、出会う人たちと渡口さんの心をつなげている。
 (佐野真慈)