観光客が増えても沖縄地元企業が苦境に立たされる理由 ◇沖縄観光新ステージ~1000万人時代へ〈下〉


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 県文化観光スポーツ部が2018年に実施した県民の意識調査では、「観光が沖縄の発展に重要な役割を果たしているか」との質問に「思う」と答えた人は84・4%に上った。その一方で「観光が発展すると自分の生活も豊かになると思うか」との問いに、「思う」と答えたのは29・1%にとどまり、「思わない」の37・1%が上回った。

10連休を迎え沖縄で過ごそうと来県した観光客ら=26日、那覇空港到着ロビー

 県内総生産(GDP)は年々微増で推移しているが、入域観光客数の伸び率とは差があり、観光客の増加が県民生活の恩恵につながっているという実感は乏しいのが実情だ。

 また、観光客が拡大する魅力的な市場として沖縄への県外企業の進出が相次ぐ中で、大手資本との競争にさらされる県内企業の体力も課題になっている。県中小企業団体中央会の上里芳弘専務理事は「大企業を対象にした景況調査はプラスが続いているが、われわれの景況調査は18期連続でマイナスだ」と語り、県内の中小零細企業が直面する厳しさを指摘する。

 観光客を相手に売り上げが上がっても、人手確保のための人件費の高騰などから収益は圧迫される。そして賃金を上げても採用はままならず、事業拡大どころか現状の操業を維持することさえ逼迫(ひっぱく)する。

 上里専務は「観光客が増えると人手の確保が必要になる。大手企業は最低賃金よりはるかに高い賃金に設定してもやっていけるが、中小零細企業は厳しい」とため息をつく。ホテルや商業施設の増加で需要が高まるビルメンテナンス業では、県外企業が赤字でも安く入札して市場を独占する例もあるといい、上里専務は「県内事業者を使うような条例が必要だとの話も出ている」と述べた。

 観光土産品の菓子類や青果物の多くが県外で製造、仕入れされている現状もあり、県内製造業の強化も求められる。

 県ホテル協会の當山智士会長は「飲食店の食材もほとんど県外から持ってきている。1千万人の胃袋があり、販路は目の前にあるのにそれを生かせていない」と語り、地元の生産量を増やし沖縄を訪れる1千万人の市場に切り込んでいく必要性を指摘する。

 近年では情報通信技術を使って遠隔操作で葉野菜を屋内栽培するなどの技術も登場している。労働力不足を克服する先端技術を各産業に結び付けて地元中小の生産性を上げ、県内企業が生き残っていける道筋を付けることが問われてくる。

 琉球大学国際地域創造学部の下地芳郎教授は「農林水産業や製造業など、あらゆる産業が観光と密接に関わっている。観光業と連携して現地調達率を高め、沖縄に落ちるお金を増やす必要がある」と指摘した。

 不景気や災害などに左右されながらも、令和の時代には観光客1千万人台で推移することが見込まれるところまで成長してきた沖縄の観光産業。数の拡大をきちんと地元に還元させて自立経済に貢献する仕組みや、自然や景観を保ちながら持続可能な成長を続けていくための「量から質への転換」への挑戦という次のステージが待っている。
 (中村優希)