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緊迫するイラン情勢 日朝交渉進む可能性<佐藤優のウチナー評論>


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 イラン情勢が緊迫している。2日、米国はイラン産原油の禁輸制裁から日本など8カ国・地域に認めた適用除外の措置を打ち切った。その結果、輸入を続ければ米国の制裁の対象になる。

 来年11月の大統領選挙を視野に入れて、トランプ大統領は、親イスラエル政策を一層強化している。米国では、ユダヤ系市民だけでなく、キリスト教福音派と呼ばれる保守勢力もイスラエルを支持している。選挙対策の観点からイスラエルにとって最大の脅威であるイランに対する圧力をトランプ政権は強めているのである。

 この措置に反発したイランは、危険なカードを切った。〈イランのロウハニ大統領は8日、核兵器の原料にもなる濃縮ウランの貯蔵量の制限など、核合意の履行を一部停止する方針を表明した。米国の合意離脱と制裁再開への対抗措置。今後60日間で欧州などとの交渉に進展がなければ、高濃縮ウランを製造するとも警告した。事実上の最後通告で、核合意は崩壊の瀬戸際に立たされた〉(9日本紙電子版)。

 それ以前にも、4月28日にザリフ外相が核不拡散条約(NPT)からの離脱も選択肢に入っていると述べ、同日、イスラム革命防衛隊のハゲリ司令官が、〈「イランの原油が海峡を通れないなら、他国の原油も通過できない」とホルムズ海峡の封鎖を警告〉(2日「朝日新聞デジタル」)した。

 もっともイランは強気の発言を行っているが、米国に対する有効な対抗策を取ることはできない。ホルムズ海峡にしても、国際航路帯は、イラン領海を避け、アラブ首長国連邦とオマーンの領海内に設置されている。海峡封鎖のために他国の領海に機雷を敷設すると、国際法的に宣戦布告と見なされる。そこまでのリスクをイランは取れない。

 重要なのは、この危機が東アジアに与える影響だ。筆者は、米国の対北朝鮮政策が軟化すると見ている。国際政治は、均衡によって成り立っている。米国は、他のどの国の追随することができない圧倒的な軍事力を有している。にもかかわらず、中東と東アジアの二正面で戦争を行う力はない。イランは米国と軍事衝突を起こせば、現在のイスラム政権が崩壊することをよく理解している。

 本紙は、10日社説で、〈イラン国軍や革命防衛隊は臨戦態勢を整えたと伝えられる。指導部は米国への挑発的行動は控える認識を共有しているという。しかしイランの支配下にあるイラクやレバノンなどの民兵組織や革命防衛隊の末端による偶発的な衝突が懸念されている〉と指摘している。筆者も同じ認識だ。偶発的な衝突が戦争に発展する可能性がある。

 このような状況で、イラン問題に集中できるようにするために、米国は北朝鮮と紛争を起こさないように配慮することになる。北朝鮮問題は、来年の米大統領選挙において、それほど大きな要因になっていないからだ。米朝が水面下で継続している事務レベルの交渉で、米国が譲歩すると筆者は見ている。この文脈で、日朝首脳会談の実現に向けた動きが加速するかもしれない。

(作家・元外務省主任分析官)

(琉球新報 2019年5月11日掲載)