丸山衆院議員の暴言 領土交渉停滞の恐れも<佐藤優のウチナー評論>


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 ビザなし訪問で北方領土の国後島を訪れた国会議員が北方領土問題に関して前代未聞の暴言を吐いた。

 〈日本維新の会の丸山穂高衆院議員(35)=大阪19区=が、北方領土へのビザなし交流訪問団に同行していた11日夜、国後島の宿舎で酒に酔い、元島民の団長に「戦争でこの島を取り返すのは賛成ですか、反対ですか」と質問したり、大声で騒いだりしたことが13日分かった〉(14日本紙電子版)。

 本件はロシアでも問題になっている。〈ロシア上院のコサチョフ国際問題委員長は13日、モスクワで開催された日ロ知事会議の会場で記者団に「日ロ関係の流れの中で最もひどい(発言だ)」と述べ批判した〉(14日「共同通信」)。

 14日、丸山氏は日本維新の会に離党届を提出した。日本維新代表の松井一郎大阪市長は「自ら判断し辞職すべきだ」と語ったが、当然の反応と思う。丸山氏は一刻も早く議員辞職してケジメをつけるべきだ。これに対して丸山氏は、国会で議員辞職勧告案が可決されても任期を全うするとの意向を15日にツイッターで発表した。

 暴言を吐いたとき、丸山氏は酩酊(めいてい)しており、「決まりに反して友好の家の敷地から出ようとした」(14日「朝日新聞」朝刊)という記事を読んだときに筆者は戦慄(せんりつ)した。北方領土交渉に大打撃を与える危険があったからだ。

 友好の家の敷地外で大声で叫んでいたならば、ロシア警察によって拘束される可能性があった。ロシアの官憲に対して「戦争で島を取り戻すのに賛成か」などという発言をしたら、深刻な事態に発展した。なぜならロシアの法令で戦争を煽(あお)る発言は禁止されているからだ。

 北方領土はロシアが実効支配しているが、日本の立場としてはそれを認めるわけにはいかない。ビザなし交流は、あくまでも日本の法令に従って行われているという擬制を整えた上で行われている。だから、日本人の訪問団員は、パスポートではなく、身分証明証、ビザではなく挿入紙によって、ロシアの法的管轄に服していないという体裁を整える。

 ロシアは、身分証明書をパスポート、挿入紙をビザと見なして、正規の入国手続きを行っているという立場を取る。そして、日ロが互いの立場の矛盾を詰めないというガラス細工のような仕組みでビザなし交流が成り立っているのである。

 丸山氏がロシアの官憲に拘束され、しかも戦争を煽動(せんどう)したという理由で刑事責任を追及されることになれば、ビザなし交流の枠組みが崩壊してしまう。北方領土交渉も停滞する。丸山氏はロシアとの領土交渉の難しさをまったく理解していない。

 丸山氏は、衆議院の沖縄及び北方問題に関する特別委員会の委員でもある。国策の選択肢として戦争を含めているこの人物が沖縄に関する政策形成を行っているという事実を軽視すべきでない。この丸山氏の沖縄をめぐる発言や行動について、沖縄の新聞が検証し、読者に伝えてほしい。

(作家・元外務省主任分析官)

(琉球新報 2019年5月18日掲載)