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衆参同日選 口実化される「緊急避難」<佐藤優のウチナー評論>


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 先週から永田町(政界)では、安倍晋三首相が衆議院を解散し、衆参同日選挙を行うのではないかという感触が強まっている。参議院選挙は予定通りに行うが、10月の消費増税前までに衆議院の解散総選挙があるという見方もある。解散は首相の専管事項なので、真相はわからない。しかし、国会議員や政治部記者が、解散で浮き足立っていることは間違いない。

 解散総選挙には争点が必要となる。安倍首相が10月の消費増税を再度延期し、国民の信を問うのではないかという見方をする野党政治家や政治部記者がいるが、筆者はその可能性は低いと思う。既に来年の予算が、消費増税を前提として組まれて、関連法案を準備しているからだ。これを覆す行政コストが大きすぎる。仮に消費増税の再延期ということになれば、霞が関(官界)における財務相の地位は地に落ちる。

 北方領土問題や対北朝鮮外交が争点になるという見方もあるが、国民世論が内向きの状況で外交問題で解散総選挙の正当性を国民に納得させることはできない。

 筆者は、真実の争点は、安倍首相の4選を認めるか否かだと見ている。安倍氏の自民党総裁としての任期は2021年までだ。自民党の党則で総裁の4選は禁止されている。もっとも、3選が禁止されていた党則を改正されたので、安倍氏は去年総裁に選ばれた。党則を改正すれば4選も可能になる。

 この環境を整えるには、衆参両院で与党の自民党と公明党が圧勝しなくてはならない。こうなると、国民の抵抗が強い消費増税後に解散総選挙を行うというシナリオは合理的でない。国民は、政治の混乱を恐れている。安倍政権を積極的に支持しているわけではないが、政権交代が起きて混乱が生じるのは勘弁してほしいというのが国民の最大公約数と思う。

 衆議院の定数465人のうち289人が小選挙区だ(残り176人は比例代表)。小選挙区で、野党は候補者を統一しないと、与党と互角の闘いができない。

 現状で、立憲民主党は、国民民主党主要打撃論を取っていると筆者は見ている。与党との決勝戦に進む前に、野党の中で第一党になることを狙っている。準決勝で勝利して、安倍政権後に行われる総選挙で政権を奪取するという二段階戦術なのであろう。

 この戦術は、安倍首相の4選にとって都合がいい。解散総選挙になれば、「安定か、変化か」という分節化が起きる。世論は安定に流れると思う。

 この流れは、辺野古新基地建設についても現状維持という中央政府の選択をもたらす。ただし、新基地の完成には時間がかかる。そこで、最近、耳にするのが「緊急避難」という言葉だ。普天間飛行場を早期に閉鎖するために、辺野古以外の県内に米海兵隊を一時的に移転するというシナリオだ。

 政府に近い安全保障専門家の中には、具体的な場所をあげる人もいる。沖縄の米軍基地の過重負担を抜本的に変化させなくてはならないという意識が東京の政治エリート(国会議員、官僚)とマスメディア関係者には稀薄(きはく)だ。このような状況を念頭に置いて、国政選挙に臨む必要がある。

 辺野古新基地建設反対を堅持するとともに、「緊急避難」を口実とした普天間海兵隊施設の辺野古以外の県内移設も認めないという強い政治的意志を沖縄の政治家は持ってほしい。

(作家・元外務省主任分析官)

(琉球新報 2019年5月25日掲載)