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トランプ訪日 衆参同日選の思惑高まる<佐藤優のウチナー評論>


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 トランプ米大統領の公式訪日は、外交よりも内政に与える影響の方が大きい。5月27日に東京の迎賓館で行われた日米首脳会談で、安倍晋三首相の前提条件を付けずに北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長との首脳会談を目指すという方針をトランプ氏が全面的に支持した。外交には相手がある。日本の思惑通り、北朝鮮がすぐに日朝首脳会談に応じることにはならないであろう。

 米国から金正恩体制の存続に対する保障を得ることが北朝鮮の外交目標だ。そのためには、北朝鮮の核問題を解決しなくてはならない。核廃絶に関して米国との折り合いがつくレベルまで、北朝鮮が譲歩しなくては、第3回米朝首脳会談の実現は難しい。この調整には時間がかかる。金正恩氏であっても、軍幹部や核兵器と弾道ミサイルを開発する専門家集団の意向を完全に無視して、全面的核廃絶を約束することはできない。

 金正恩氏が切ることができるカードは「段階的核廃絶」だけだ。トランプ氏はそのことをよく分かっている。北朝鮮が核兵器を検証可能な形で完全に廃絶しなくても、金正恩政権との関係正常化に応じる決断をトランプ氏は既にしていると思う。だから、北朝鮮は、トランプ大統領の再選を望んでいる。北朝鮮は、来年の米大統領選挙を意識して、露骨なシグナルを出し、今回の訪日中にトランプ氏がそれに反応した。

 〈(5月)26日朝のツイートでは、北朝鮮の朝鮮中央通信(KCNA)が22日の記事で、バイデン氏を「低IQのバカ」となじったことを踏まえ、「彼(金正恩・朝鮮労働党委員長)が『ヘドロ男』ジョー・バイデンを『低IQ』とか、さらにひどい言葉で呼んでいるのには笑ってしまった。たぶん私にサインを送っているのだろうか?」とこきおろし、正恩氏と交渉できるのはバイデン氏ではなく自分だとアピール。27日の記者会見でも「その点(バイデン氏への評価)では、金正恩氏と一致している」と語った〉(5月28日「朝日新聞デジタル」)。

 トランプ氏が来年の大統領選挙で再選されれば、任期は25年1月までだ。もっとも24年11月には大統領選挙が行われるので、トランプ氏が実質的な影響力を外交で行使できるのは、24年夏までだ。金正恩氏は、約5年間かけて米国と取引することが可能になる。

 この事情を安倍首相も日本外務省もよく理解している。現状だと安倍氏の自民党総裁としての任期は21年秋までだ。自民党が党則を改正して、総裁4選が可能になれば、安倍氏は2024年まで首相職にとどまることになる。

 このシナリオが実現すると、大統領に再選されたトランプ氏と調整しながら対北朝鮮外交を推進することができるようになる。安倍首相の4選を実現するためには、今年10月の消費増税前に衆議院の解散総選挙を行うことが合理的だ。7月中旬以降8月初旬までに、衆議院と参議院の同時選挙が実施される可能性が高まった。

 沖縄以外で、辺野古新基地建設問題を含む沖縄における在日米軍基地の過重負担問題は争点にならない。だからこそ、この機会に再度、辺野古新基地建設反対を公約に明確に掲げ、沖縄の民意を中央政府に対して示すことが重要になる。

(作家・元外務省主任分析官)

(琉球新報 2019年6月1日掲載)