社会

市場で働く人の物語を記録する理由 「市場界隈」の著者・橋本倫史さん 沖縄・牧志公設市場あす営業終了

公設市場の店主たちのストーリーをつづった「市場界隈」の著者の橋本倫史さん=14日、那覇市松尾の第一牧志公設市場前

 那覇市の第一牧志公設市場の現市場での営業終了まで15日であと1日となった。公設市場とその周りの店で働く人たちのストーリーをつづった「市場界隈」(本の雑誌社)が5月25日から刊行されている。著者でライターの橋本倫史さんは「市場は生き物という言葉がしっくりきた。新陳代謝をして動き続けている市場の今を記録した」と話す。

 橋本さんは、ひめゆり学徒隊に着想を得て描かれた舞台「COCOON(コクーン)」(原作・今日マチ子)の取材で2013年ごろから毎年沖縄に訪れるようになった。公設市場を歩く機会があり、建て替えになると知った。「今の風景があるうちに記録したい」と思い、昨年6月から取材を始めた。

 夜明け前に開く果物屋や名物女将の鮮魚店などの老舗から、立ち飲み居酒屋やコーヒー屋などの新顔まで。30店舗で働く人たちが生まれて今に至るまでのストーリーを丹念に聞き取った。橋本さんは「常に移り変わる景色に愛着を持つのはなぜかと考えたとき、やっぱり人だと思った。働いている人がこの風景を形作っている」と話す。

 戦後台湾から引き揚げてきた人や、復帰前の日米繊維交渉のはざまでミシンの輸出に携わった店主など会話の随所に戦後史の一幕がにじみ出ることも。「個人の話の中に戦後史がさらっと出てきた。生活の中に影響していることだと改めて感じた」と振り返る。

 橋本さんは「戦争が終わってから今日に至るまで、生活を立ち上げるまでの時間がある。今とは違う姿があったことを知ることは、常に違う道があり得ることを知ることにつながる」とした上で、「この本をきっかけに沖縄のことや、自分が住んでいる街は昔どうだったのかということにも興味を持ってもらえれば」と語った。

 15日午後2時から、ジュンク堂書店那覇店で、橋本さんと市場の古本屋ウララ店主の宇田智子さんとのトークライブ、27日午後7時半から琉球新報社の屋上庭園でお笑い芸人「ピース」で作家の又吉直樹さんとのトークイベント(本の雑誌社主催)がある。 (田吹遥子)