日本一のバスケ選手の体作りをサポートする男 「最初は体も触らせてもらえなかった」


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県出身のプロバスケ選手が集結したイベントで体づくりの大切さを解説する多田我樹丸さん(右)=16日、那覇市民体育館(田中芳撮影)

 日本一のバスケットボール選手の体づくりをサポートする沖縄県出身の男性がいる。プロバスケBリーグ1部の千葉ジェッツでストレングス&コンディショニングコーチを務める多田我樹丸(がじゅまる)さん(29)=那覇市出身=だ。千葉は2018―19シーズンMVPの富樫勇樹らスター選手をそろえ、2季連続準優勝を飾った強豪クラブ。「体が資本」のプロ選手の管理という重責に「まだまだ勉強中だけど、少しでも日本のバスケに貢献したい」と多田さん。謙虚な言葉の中に、裏方としてプロ競技を支える気概が見える。(長嶺真輝)

■転機はプロ野球

 識名小5年でバスケを始め、石田中、那覇高3年までプレーを続けた。選手として全国舞台で活躍することはなかったが、「スポーツに関わる仕事がしたい」と高校卒業後は当時、沖縄市にあった専門学校「沖縄メディカル・スポーツ学院」に入学。整体の技術やトレーニングの知識をみっちり学んだ。

 転機は09年11月。同校理事長だった赤坂守さんがプロ野球・千葉ロッテのフィジカルコーチを務めていたことがきっかけで、ロッテとコンディショニングスタッフとして契約を結び、1軍と2軍を行き来しながら13年まで続けた。

 ただロッテと契約した当初は「野球をやったこともなく、県外での生活も初めて。当初は選手に信頼してもらえず、体も触らせてもらえなかった」とプロ選手の体づくりに関する繊細な一面を身に染みて知った。「この仕事はまず選手と関係性をつくることが大事だ」という点に気づき、少しずつ野球の知識を蓄え、選手と積極的にコミュニケーションを図りながら信頼を勝ち取っていった。

■けが防止に力点

 ロッテを離れた後は沖縄に戻り、パーソナルトレーナーとして活動を始めた。母校の那覇高女子バスケ部を皮切りに、県内指導者らのつながりで琉球ゴールデンキングスに所属していた金城茂之や並里成らのトレーナーも務めるように。その縁から全国各地のプロ選手からも依頼を受けるようになり、Bリーグ開幕元年の16年、念願だったプロバスケの千葉ジェッツから誘いを受け、ストレングス&コンディショニングコーチとして就任した。

 プロ選手のコーチをする上で最も重点を置くのは「けがをしない体づくり」だ。股関節の可動域を広げたり、ハムストリング(太もも裏)を柔らかくしたりし、できるだけけがを防ぐ。けがは球団だけでなく、スポンサーやファンなど多方面に影響を与えるため「ストレングスコーチにはそれ相応の責任がある」と難しさを痛感する。それでも「自分はバスケのおかげで生きてこられた。選手がいいプレーをしてチームが勝った時、多くの人が喜んでくれることがやりがいになっている」と前向きさを忘れない。

 「同じ競技でも、ポジションや個々の選手が描く選手像によって体づくりのやり方は違ってくる」と、選手と相談しながら練習メニューを組む。特にバスケは高身長の選手が機敏に動くため、傷害の防止やプレーの力強さや質を向上させるために「止まる力」を養う必要があるという。

 県外での活動期間は長いが、自身を育て、今の仕事への道筋をつくった故郷沖縄への思いは強い。「沖縄はずっと大好き。千葉が強くなって沖縄でキングスと試合をすれば、沖縄の子どもたちもうれしいと思う」と目を輝かせる。後継の育成についても「沖縄はまだトレーナーの価値が浸透しておらず、子どもたちも何をして、どういう道筋ならトレーナーになれるかという情報がない。自分もまだまだ勉強中だけど、沖縄での交流やSNSでの情報発信などを通して沖縄に貢献していきたい」と意欲を語った。