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「緊急避難」という罠 二者択一は成立し得ない<佐藤優のウチナー評論>


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 辺野古新基地建設問題を巡り総務省の第三者機関「国地方係争処理委員会」(係争委)に対して、県は辺野古埋め立て承認撤回を取り消した国土交通相の裁決を違法とする審査を申し出ていたが、17日、国はこの申し出を却下した。

 18日、岩屋毅防衛相は、埋め立て工事を継続する意向を示した上で、〈県が提訴する方針であることについては「国と沖縄の認識がいつまでもずれたままでは結果として普天間の返還が遅れていく。最悪の場合は固定化につながっていく。これだけは断じて避けなければいけない」と強調した〉(18日本紙電子版)。

 さらに19日、松川正則宜野湾市長が市議会一般質問で、〈玉城デニー知事が代替案を示す意向がないことなどを理由に「現状では市民のことを考え、容認せざるを得ないのではないか」と答弁した〉(20日本紙電子版)。

 この二つの出来事は連動していると筆者は見ている。「普天間基地の固定化か、辺野古新基地建設の容認か、いずれかを選択せよ」という最後通牒(つうちょう)を国が突きつけ、県内の一部勢力がそれに同調している。普天間基地の閉鎖は、国が沖縄に対して約束したことだ。無条件で履行するのが筋だ。辺野古新基地の建設に沖縄は同意していない。従って、このような二者択一は成立し得ない問題だ。

 松川市長は、玉城デニー知事が代替案を示す意向がないことなどを理由にしているとのことだが、県知事は沖縄県以外の都道府県に関する事項に介入する権限はない。従って、玉城知事が代替案を示すならば、論理的には自らの権限が及ぶ範囲で基地の受け入れ場所を示す、すなわち県内案しか提起できない。

 この関連で、玉城氏と同じ陣営に属する屋良朝博衆議院議員(国民民主党、4月21日の補欠選挙で当選)の言説に筆者は強い危惧を抱いている。屋良氏は本紙に対して、こんなことを述べている。

 〈屋良氏は米軍普天間飛行場の危険性除去についてマイク・モチヅキ米ジョージ・ワシントン大准教授の意見などを念頭に「米海兵隊が必要なヘリなどは5、6機だ。シュワブやハンセンにヘリパッドを設置すれば普天間は数年以内に閉鎖可能となる」との見解を示した。(中略)既存の米軍基地内にヘリパッドを設置することが基地の県内移設に当たるのではとの問いについては「合理的な道筋をどう立てるかだ。具体的手法を提起することが重要で、(私の主張を)そのまま実行するわけではない」と述べ、普天間の危険性を除去し、辺野古の埋め立て計画を阻止するための議論提起であることを強調した〉(4月23日本紙電子版)。

 客観的に見て屋良氏の主張は、県内移設案だ。日本の中央政府は辺野古新基地建設には時間がかかると認識している。その間に普天間の米海兵隊を県内に「緊急避難」させれば、普天間基地の閉鎖は可能になるという変化球を投げてくるかもしれない。そのとき、まず屋良氏の案は、県内移設の流れについての議論を始める突破口になる。

 玉城知事は、公の場で、シュワブやハンセンにヘリパッドを設置を含むあらゆる形態の県内移設シナリオを取らないという姿勢を鮮明にすべきと思う。

(作家・元外務省主任分析官)

(琉球新報 2019年6月22日掲載)