小5の糖尿病予備群をゼロに 島唯一の小児科医 生活習慣改善を呼び掛け、子の成長支える 夢つむぐ島・久米島物産フェア@琉球新報〈中〉


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島でただ1人の小児科医として子どもたちと向き合う公立久米島病院の渡辺幸さん(中央)と、町役場の平田淳子さん(左)、新垣朋美さん=6月19日、久米島町嘉手苅

 公立久米島病院は、水平線が見渡せる高台にある。久米島町唯一の病院として、救急外来にも24時間対応している。町民の命と健康を守るまさに「砦(とりで)」だ。

 8年前、新潟県出身の小児科医、渡辺幸(さち)さん(39)が県立南部医療センターから移ってきた。将来の目標は開発途上国でのへき地医療。久米島は「修行のつもり」だった。それが「やりたいことがいっぱいあって居座り」(渡辺さん)、結婚。2人の子を育てる一方、島でただ1人の小児科医として、子どもたちと日々向き合っている。

 当初「なんで?」の連続だった。幼児がコーラとポテトチップスを食べながら診察を待っている。町が2009年度に実施した健診で、小学5年生の3割が糖尿病予備群と診断された。12年度の調査では、久米島の小学生の肥満率は、沖縄本島の1・44倍の12・8%だった。がくぜんとした。

 地域に出てみると、数字の背景が見えてきた。小学生の4割が保護者の送迎で通学していた。共働きが多く、午後7時半以降に夕食を取る家庭が7割に上った。「代謝が悪く、寝るのも遅くなる。朝ご飯も食べない。悪循環だった」。町の栄養士平田淳子さん(57)と連携し、12年度から「子ども健康プロジェクト」を始めた。

 FMくめじまに週1回出演し「徒歩通学、早寝早起き、朝ご飯」を訴えた。毎年、町内の小中学校で生活習慣に関する授業を実施。野菜不足を補おうと、病院前で野菜の無人販売を企画した。それらの結果、18年度の健診で小学5年の糖尿病予備群はゼロに。肥満率も同年度、沖縄本島の1・09倍まで改善した。

 一方、町には保育士から「落ち着きのない子が増えている」との声も寄せられていた。しかし、障がいのある子どもたちが専門的医療を受けられる場がない。

 渡辺さんは15年度、町の保健師新垣朋美さん(41)らと「親子支援事業」を立ち上げ、相談活動や就学時健診を始めた。この4月からは久米島病院で「こども療育外来」も開始。月1回、東京の専門医らが来院し、言語訓練などを行っている。都市部との「医療格差」を埋める取り組みだ。

 渡辺さんは本年度の沖縄小児保健賞を受賞した。主催の県小児保健協会は「専門職の少ない離島の地域医療、小児保健活動のモデル」と評価。渡辺さんは「最初は『変わらない、伝わらない』と悩んでいた」と振り返り、「子どもたちは無限の可能性を秘めている。自信を持って成長できるよう力になれれば」。エネルギッシュな話しぶりもそのまま、今日も島中を飛び回る。

(真崎裕史)

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 「夢つむぐ島」をキャッチコピーに掲げる久米島町。12、13日に那覇市泉崎の琉球新報社で開かれる物産フェア「久米島ちゃんぷる~広場」に合わせ、奮闘する町民の姿を紹介する。