「保育園落ちた」自分の身にも 妻は復職を諦め、減っていく貯金 依然多い沖縄の待機児童 保育士不足が要因に 国は確保に向け課題解決を【暮らしは今 7・21参院選】③


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 まさかとは思っていたが「保育園落ちた」だった。南城市の大城貴幸さん(32)は3年前、生後6カ月の長男の認可保育施設入所を申し込んだ。結果がそれだった。

長男と遊ぶ大城貴幸さん。待機児童の経験から「自分たちでできることは自分たちで」と語る=8日午後、南城市

 幼少から父の影響で三線に触れてきた。県立芸術大に通い、高校音楽の教員免許を取得。大学院の修士課程を終え、母校で臨時教員をしていた。しかしプロの三線奏者になろうと一念発起し、4年前に教員をやめた。伝統芸能の研究のために大学院の博士課程にも入った。妻の妊娠が分かったのは、その直後だった。

 出産後、琉球舞踊家の妻の復職希望に合わせて入所を申し込んだ。当時、午前中は高校の非常勤講師、昼は大学院、夕方からは三線の教室を開いたり自身の稽古をしたり。育児の時間は確保できない状態だったが入所は認められなかった。

 プロの奏者になり立てだった大城さん。入所がかなわず妻は復職を諦めた。自身も大学院を休学し、仕事に専念した。それでも一家の収入は教員当時の5分の3まで激減した。1年待てば入所できると思っていたが次の年もまた、駄目だった。保育料は倍以上だが隣町の認可外施設に長男を預けて夫婦で働いた。貯金はじわじわ減っていった。

 施設整備が進み、2009年に2万9888人だった認可定員は今年4月1日現在、6万310人にまで増加。今年4月1日現在の待機児童は1702人で4年連続で減少している。一方で、業務負担や待遇面から保育士不足は深刻で、有効求人倍率は14年度の1・5倍に対して18年度は3・13倍。求職者1人を3施設で取り合う事態になっている。児童数当たりの保育士数の要件が厳しい0歳児と1歳児では、定員には空きがあるものの保育士が足りずに受け入れできない施設もある。

 大城さんの場合も保育士不足が原因だった。今年10月には消費税が10%に上がる。国は増税分で保育施設の利用料を無償化し、保育士の待遇も改善するとしている。ただ、大城さんは「無償化はありがたいけれど、保育士が足りなければ入所はできませんよね。保育士確保が先じゃないですか」。保育士になった教え子には、既に辞めた人もいる。責任の重さに見合った待遇にならなければ、なり手不足は解消しないと思う。

 昨年からようやく市内の認可保育施設に通わせることができた。待機児童の現実に直面した大城さんは、地域ぐるみで育児を支援する仕組みができないかと考えるようになった。今年4月には地元の仲間とチームを結成し、公民館を子育て世代の居場所にしようと模索を続ける。「政治や行政、保育士だけに任せきりでは解決しない。だから自分たちでできることをしたい。ゆいまーる(助け合い)の精神です」。育児支援の仕組みができれば、地元を愛する人たちが増えると思っている。

('19参院選取材班)

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 参院選が4日、公示され、候補者は県内各地で政策を訴えている。生活や子育て、基地問題について有権者はどう思っているのか。「暮らしのいま」を歩いて回った。