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参院選の争点 明確な沖縄、関心低い日本<佐藤優のウチナー評論>


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 21日に投開票が行われる参議院議員選挙に関して、沖縄とそれ以外の日本では状況がだいぶ異なっている。

 沖縄では、候補者の間で争点が明確になっている。これが沖縄とその他の地域の大きな違いだ。実質的には、安里繁信氏と高良鉄美氏の一騎打ちになっている。最大の争点である辺野古新基地建設問題については、高良氏が反対の立場を表明しているのに対して、安里氏は明確な立場を表明していない。それ以外、安倍政権への評価、先島地域への自衛隊配備、憲法9条を含む改憲の是非、消費税を10%にすることなど争点について、両候補の見解は正面から対立している。有権者一人一人が、候補者の政策と人柄をよく理解した上で、自らの価値観に近い候補者に投票してほしいと思う。

 沖縄以外の日本では状況がまったく異なる。どの争点についても最終的に安定か混乱かという問題に収斂(しゅうれん)する。60歳から95歳まで夫婦で生活するのに2千万円が必要であるとの金融庁の報告書に関して、野党が激しく政権を攻撃するが説得力がない。この仕組みは社会保障と税の一体改革との名の下、民主党政権で当時野党だった自民党と公明党が合意してできたものだ。製造者責任に口を拭って、年金問題を政争の具にしようとする旧民主党幹部だった野党政治家の姿は見苦しい。

 もっとも国民が諸手(もろて)を挙げて与党を支持しているのではない。将来の生活に対する不安を誰もが感じている。しかし、政治には期待できない。となると自分の身は自分で守らなくてはならないという発想になる。ここから、政治的混乱だけはもう起こさないでほしいという気持ちになる。

 現在の野党政治家を見ていると内政や外交で具体的政策を打ち出すよりも、自らの生き残りで精一杯だ。立憲民主党は標的を安倍政権よりも国民民主党に定めているように見える。野党勢力内での覇権を確立しようと考えているのであろう。従って、現実的な対案を提示することができない。

 最低賃金政策に関しても中小零細企業の現実をよく理解していないとしか思えない。立憲民主党は最低賃金を1300円に引き上げると主張しているが、それが実現すれば賃金上昇の圧力に耐えることが出来ない中小零細企業は倒産する。その結果、巨大資本を中心に日本の産業構造が再編される。最低賃金の極端な上昇は、弱肉強食による集中と選択をもたらすことにしかならない。

 日本では、政治的無関心が広がり、深刻な事態を招きつつある。一人一人が不安から生活防衛に走る。その裏返しであるが、財政安定化や外交・安全保障政策に対する関心は低くなる。結果として、沖縄に対する姿勢は、一層、無関心で冷淡になると思う。このことを踏まえ、沖縄の自己決定権を強化し、自らの利益、名誉と尊厳を沖縄人の手によって強化する必要に迫られることになると思う。

(作家・元外務省主任分析官)

(琉球新報 2019年7月13日掲載)