【記者座談会】取材から見えた参院選沖縄選挙区


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 21日に投開票された第25回参院選沖縄選挙区(改選数1)は「オール沖縄」勢力が支援する無所属新人で琉球大名誉教授の高良鉄美氏(65)が、自民新人でシンバホールディングス前会長の安里繁信氏(49)=公明、維新推薦=を破り、初当選した。参院選の意義や勝因・敗因、米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設問題の行方などについて取材班が話し合った。


 

<参院選の意義>再度示された辺野古「ノー」の強い民意

 C 県民投票後初の全県選挙となり、辺野古問題や沖縄振興について全県的な民意が表れたと思う。政治の新人4人の戦いということもあって、従来の予定調和の選挙とは違う面白さがあった。投票率が50%を切ったのに、主要候補以外の2人が共に1万票を超えたことも驚きだった。全国的にも言えるが、この低投票率から言えば敗れたのは政治そのものへの信頼だ。当選した高良鉄美氏が、これから国会で何をしていくのかが6年後の投票率を左右すると思ってほしい。

 A 県知事選、県民投票、衆院3区補選と「辺野古ノー」の民意が示されてきた流れの中で、改めて「ノー」を突き付けたということは意義があった。一方で、政権選択選挙ではなかったとはいえ投票率は50%を下回り、関心が薄れているというのも事実だ。

 「基地ノーと言えば当選する」とやゆする声も相変わらず聞かれた。国政マイノリティー(少数派)という現状は厳しいが、当選した高良氏を含めて「オール沖縄」側の国会議員には、基地以外の暮らしに関わる政策などで目に見える成果を上げる必要がある。

 B 全国的に言えば、れいわ新選組やNHKから国民を守る党が議席を獲得したことが政界に及ぼす影響は大きい。国政野党は沖縄では県政与党の立ち位置だが、県内の比例でも、れいわ新選組など新たな政治潮流に流れた票も一定数あった。この現象をどう評価するかだ。与野党に関係なく既存政党に対する有権者の不満は少なくない。その声に政治家やメディアがどう向き合うか問われている。

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<勝因・敗因>民意無視で進む辺野古移設への県民の拒否反応 安里氏は経済界の重鎮から反発も

 C 高良鉄美氏の勝因は県民の辺野古新基地反対の民意に尽きる。序盤から報道各社の世論調査で「先行」などと報じられ、油断はなかったか。高良氏は「有権者の反応が良く、楽しい選挙戦だった」と言ってのけ、選挙事務所も緊張感が感じられない時期もあった。陣営幹部は「敗北した名護市長選を忘れるな」と引き締めていたが、どこまで浸透していたか。

 A 糸数慶子氏が当選した2013年の前々回参院選よりも投票率が3・5ポイント下がった中で糸数氏より多く得票したのは、当時はなかった「オール沖縄」態勢の誕生や知事選、県民投票で示された民意に反して進む新基地建設に対する県民の拒否反応が表れたのだろう。安保を巡る発言など「オール沖縄」に亀裂を招きかねない場面もあった高良氏だが、29万票を背に今後、国会でどれだけ実績を上げられるか問われている。

 C 安里氏は経済界の重鎮からの反発が強かった。会社を急成長させてきたこともあり「生意気」というイメージが払拭(ふっしょく)できなかったところもある。

 B 安里氏は新基地建設の賛否を明言しなかった。本紙には保守支持層の有権者からも「賛成を明言しないと判断材料にならない」という不満の声が寄せられた。「賛成」を掲げて出馬した辺野古の玉利朝輝氏が1万2千超の票を集めた事実をどう評価するかだ。

 D 東京でも安里氏の状況はほとんど話題に上っていなかった。今回は全国一斉だったのに、知事選や衆院3区補選であれだけ注目を集めたこととの落差が際立った。決起大会には自民の二階俊博幹事長が来県予定だったが、見送られた。見放されているとの印象が強かった。

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<沖縄県内政局>来年の県議選の行方に影響

 A 参院選が終わって県内政局は来年の県議選に移る。与党としては参院選の勝利で安定多数に向けて弾みが付いた格好だが、今期限りでの勇退がささやかれる与党県議も少なくない。世代交代が成功するかはまた別の話で、今後、後継探しが本格化する。

 C 県議選の注目選挙区は自民側で言えば浦添市だ。選挙区で唯一、自民県議がいない。「オール沖縄」側で言えば沖縄市だ。比例代表に出馬した前県議の仲村未央氏(社民)の動向が注目される。立憲民主党県連も県議選で初となる候補者を那覇南部離島区で擁立した。立憲は今参院選比例代表では、県内から候補者を擁立していなかったが共産党に次ぐ得票率だった。初議席を獲得できるかも焦点となる。

 B ただ、参院選を機に与党内には不和も生じている。社民と共産が県内から比例候補を出したことが一番の要因で、玉城知事とのセット戦術を巡り、対立する場面が目立った。同じ与党である会派おきなわは、比例候補の仲村氏の応援に集中したため「高良氏を応援していない」と批判を浴びた。

 A 自民は自民で課題も多い。与党を少数に追い込むのが悲願だが、そもそも過半数奪還に向けた候補者数を擁立できていない。やはり那覇市長選出馬で県議を退いた翁長政俊氏が不在であることが影響しており、県連の「参謀不在」は続いている。

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<普天間・辺野古問題>工事止める具体策示すべき

 A 高良氏が当選したとはいえ、政府が辺野古新基地建設を止めるとは思えない。実際に工事は選挙直後も行われている。高良氏は「憲法を生かす」などと主張していたが、国政野党の無所属議員として具体的に辺野古をどう止めるのか示すべきだ。

 B 両氏とも、米軍普天間飛行場の即時閉鎖、返還は一致していた。それは県民の総意と言える。国が辺野古移設を条件に掲げる中で普天間の閉鎖・返還も含めて高良氏がどう闘うのかが今後問われる。理念だけでは普天間の返還が前に進むとは思えない。

 C 政府は辺野古の工事を進めているが、県内の有権者が下した民意に政府がどう向き合うか注目だね。民主主義国家である日本の成熟度が問われている。政府だけではなく、全国の有権者も沖縄選挙区の結果を含めて沖縄の現状を直視すべきだ。

 D 安里氏が辺野古の賛否を明確にしなかった影響はやはり大きかった。県民投票の民意を重視する姿勢を支持する人も少なくないとは思うが、自民支持層にとっては衆院3区補選で打ち出した容認の流れが止められたという思いがあった。普天間の運用停止については両陣営とも辺野古と切り離して政府に強く求めることで意見が一致した。この点に絞れば自民も巻き込んで共闘する真の「オール沖縄」を構築できるのではないかな。

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<座談会出席者>

 記者座談会参加者は吉田健一(政治部)▽当間詩朗(同)▽沖田有吾(経済部)▽高田佳典(社会部)▽知念征尚(東京報道部)