参議院議員選挙結果 辺野古強行も消極支持か<佐藤優のウチナー評論>


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 21日に投開票が行われた参議院議員選挙の沖縄選挙区(改選数1)では、「オール沖縄」勢力が支援する無所属新人で琉球大名誉教授の高良鉄美氏が、自民新人で公明、日本維新の会が推薦したシンバホールディングス前会長の安里繁信氏を破り、初当選した。

 首相官邸も自民党本部も当初からこの結果を予測していた。安里氏の支援に首相官邸や自民党本部が全力を尽くしたようにも思えない。沖縄では、翁長雄志、玉城デニーの両知事によって、辺野古新基地建設に反対する勢力が、沖縄政治の安定基盤になっていることを首相官邸も自民党本部も冷静に認識していたからだ。

 沖縄以外の選挙結果について、筆者は自民党と公明党が勝利したと見ている。安倍晋三首相は、勝敗ラインを自公で過半数、すなわち63と定めていたが、この目標を軽く突破し、71議席(自民57、公明14)を得た。自民は改選前の定数67から10議席減らしたが、2013年の参議院議員選挙は、民主党から自公が政権を奪取した直後で、自民に対して強い追い風が吹いた結果だった。今回、議席数のマイナスを極小化することが自民の課題だったが、それは予想を超える成果をあげたと思う。

 野党に関しては、立憲民主党が9議席から17議席になり、野党の中では絶対的優位を獲得することになった。しかし、自公と全野党の対決構図となった32の1人区においても、野党候補者の当選は10にとどまった。衆議院の小選挙区で、全野党が協力すれば、自公連立政権を倒すことができるという見立てが幻想であることが明らかになった。

 この状況に強い危機を覚えているのが国民民主党に所属する衆議院議員だ。次期衆議院議員総選挙で生き残ることを考え、国民から立憲への移動を試みる議員も出てくるであろう。また、国民には、憲法改正に前向きの議員もいる。自民党が衆参両院の憲法改正に前向きな議員を「一本釣り」する可能性も十分ある。安倍首相にとって政権奪取を当面、目指さない枝野幸男立憲代表の路線は、自公長期政権を維持する上で好ましい。客観的に見れば、安倍氏と枝野氏の利益は共通している。

 今回の選挙において、どのような争点も最終的に「安定か混乱か」という問題に収斂(しゅうれん)した。有権者が諸手を挙げて自公を支持しているのではない。将来の生活に対する不安を誰もが感じている。しかし、政治には期待できない。となると自分の身は自分で守らなくてはならないという発想になる。ここから、政治的混乱だけはもう起こさないでほしいという気持ちになる。

 今回の参院選の投票率は、48・8%で前回の16年選挙よりも約6ポイント低下していることが、有権者の政治に対する諦念を端的に示している。棄権した有権者は、政治の現状を変える意思を持たないとみなされる。客観的に見れば、消極的に安倍政権を支持していることになる。

 1人1人が将来の不安から生活防衛に走る。その裏返しであるが、財政安定化や外交・安全保障政策に対する関心は低くなる。生活保守主義が日本社会を覆い始めている。その結果、沖縄の在日米軍専用施設過重負担問題に対する日本人の関心は一層低くなり、辺野古新基地建設を強硬に進めようとする中央政府の政策を消極的に支持することになる。

(作家・元外務省主任分析官)

(琉球新報 2019年7月27日掲載)