翁長雄志前知事死去から1年 翁長前知事が沖縄に残したもの【特集】


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 翁長雄志前知事が他界し、8日で1年を迎えた。現職知事が任期途中に死去するのは沖縄の日本復帰後の県政史上、初めての事態だった。米軍普天間飛行場の移設に伴う辺野古の埋め立てに反対する県政の運営や、保革相乗りの「オール沖縄」勢力の行方に大きな影響を与えた。高い支持率を背景に国策への異議を唱えるも、志半ばで死去した翁長氏。死去した後の県内政局や基地問題への影響を振り返る。

 2014年の知事選では、保守政治家で自民党の重鎮でもあった故・翁長雄志前知事が新たな政治潮流である「オール沖縄」をけん引する原動力となった。「オール沖縄」勢力は辺野古新基地建設反対・阻止を最大の目標に掲げ、従来の革新共闘に保守系の一部や経済界の一部が合流した超党派の枠組みであり、14年の知事選以降は、保革で激しく対立してきた従来の構図とは異なる選挙戦が繰り広げられている。

 「オール沖縄」の誕生後、2017年の衆院選沖縄4区を除き、昨年9月の知事選や今年7月の参院選など全県選挙はいずれも「オール沖縄」勢力が支援する候補者が勝利している。現在、県選出・県関係国会議員9人のうち「オール沖縄」系は5人だが、比例復活や比例代表候補を除けば6人中5人が「オール沖縄」系だ。

 とりわけ翁長前知事の後継として前回知事選に出馬した玉城デニー知事は、政府与党が全面支援した佐喜真淳氏に8万174票の大差を付けた。玉城知事が獲得した39万6632票は知事選では最多得票となった。

 辺野古新基地建設を巡って沖縄と政府との対立が激しさを増す中、選挙戦の度に県民は辺野古反対の民意を示しているが政府は一顧だにしておらず、今後、控える全県選挙でも辺野古新基地建設の是非が主要争点となる見込みだ。

玉城デニー知事、遺志継ぐ

 米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設を巡り、安倍政権と激しく対立した翁長雄志前知事の遺志を継ぎ、現在の玉城県政も新基地建設反対の立場を貫いている。法的措置を含むあらゆる手法を用いて新基地建設阻止に取り組んだ翁長前県政の路線に加え、玉城デニー知事は対話による解決の重要性を強調している。

 辺野古新基地建設阻止を県政運営の柱に掲げた翁長前知事は任期中の約3年8カ月間、安倍政権と対峙(たいじ)してきた。2015年4月の菅義偉官房長官との初会談では、移設作業を「粛々と進めている」と述べる菅氏に対し、戦後の歴史を振り返りながら沖縄の思いを伝えた。

 沖縄の米国統治下での圧政を象徴するキャラウェイ高等弁務官が「琉球における自治は神話である」と公言して沖縄の自治権拡大を認めなかった姿に菅氏を重ね、政府の姿勢を批判した。

 同5月に那覇市で開かれた、政府に新基地建設断念を求める県民大会では「うちなーんちゅ、うしぇーてぇーないびらんどー(沖縄人をないがしろにしてはいけませんよ)」としまくとぅばで政府への反発を表現した。

 翁長前知事の死去に伴う知事選では玉城知事が当選し、新基地建設に反対する県政は引き継がれた。政府は「辺野古移設が唯一の解決策」との立場を維持して工事を続け、反対を掲げる玉城県政に対案を要求して揺さぶりを掛けている。一方、玉城県政は民主主義や地方自治の観点から工事の強行を強く非難し、対話による解決を求めている。