識者評論 指針改定も実効性なし


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山本章子(琉球大講師)

 沖国大ヘリ墜落事故は、日米地位協定の二つの問題を露呈させた。一つは、米軍機の飛行が規制されないことだ。もう一つは、米軍基地の外でも日本側に事故現場の捜査が認められないことだ。

 日米地位協定には米軍機の飛行に関する規定がない。米軍が日本領空を飛行する根拠とするのは、5条2項の「施設及び区域に出入し、これらのものの間を移動」できるという文言である。だが米軍にとって基地と基地との間の移動は訓練であり、実戦同様に行う。沖国大に墜落した米軍機もイラク出撃に備えて訓練中だった。日米合同委員会は1996年、普天間飛行場の「場周経路は、できるかぎり学校、病院を含む人口稠密(ちゅうみつ)地域を避ける」ことで合意していた。しかし合意は守られず事故が起きた。このような現状では、仮に普天間飛行場が辺野古に移設されても、もとにあった場所を米軍機が飛ばない保証はない。

 また、日米地位協定と同時につくられた合意議事録は、協定本文に反した運用を取り決めている。17条10項bは、米軍は基地外では日本当局に従い、無断で捜査しないとする。だが合意議事録には、日本側は「合衆国の財産について、捜索、差押え又は検証を行なう権利を行使しない」とある。

 ヘリが墜落した沖国大構内を米軍が一方的に占拠したのはこのためだ。今年7月25日に米軍機事故ガイドラインが改正されたが、合意議事録で事故現場での日本の捜査権を放棄している以上、実効性はない。
 (山本章子、琉球大講師 国際政治史)