【記者解説】訴訟のポイントは?米兵強盗致傷で賠償の利息求め提訴


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 2008年に発生した米軍人2人によるタクシー強盗致傷事件を巡る今回の提訴は、米軍関連の事件・事故の被害者救済のあり方を問う訴訟となる。

 米軍人・軍属が起こした事件で、訴訟で確定した損害賠償と米側が支払う見舞金の差額を日本政府が穴埋めすることが、SACO(日米特別合同委員会)で合意されている(SACO見舞金)。

 しかし、1996年のSACO最終報告は「被害者に対して支払いを行うように努力すること」とあり、日本政府の見舞金支払いは法的な義務とはなっていないという課題をはらむ。その上、SACO見舞金の中に損害賠償金の支払いまでに生じる利子に相当する遅延損害金を含むかどうかが不明確だ。

 SACO合意に基づいて日本政府が差額を支払うためには、損害賠償請求訴訟で確定判決を得ていることが条件になっている。それまでには一定の年月を要するため、必然的に遅延損害金が発生する。基地の提供義務を負う日本政府が事件・事故の被害者を救済するのであれば、遅延損害金の支払いも視野に入れるべきだというのが被害者側の主張だ。

 今回の事件で、那覇地裁沖縄支部は約2642万円の支払いを米軍人2人に命じたが、米軍が被害者側に支払ったのは146万円にすぎない。沖縄防衛局は賠償金支払いに際して遅延損害金を求めないことを条件としている。被害者側はそれに応じず、賠償金元金も支払われないままだ。

 国の安全保障政策によって生まれた事件・事故の被害者とどのように向き合うのか。国の姿勢が法廷で問われる。

 (安富智希)