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軍事情報協定破棄 日韓武力衝突を回避せよ<佐藤優のウチナー評論>


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 22日、韓国大統領府が日本と結んでいる軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を破棄することを決めたと発表した。

 〈日本の対韓輸出規制強化が「両国間の安保協力環境に重大な変化をもたらした」ことを理由に挙げ、協定維持が「韓国の国益にそぐわないと判断した」と表明した。歴史問題に起因した日韓対立は、通商分野から安保協力に拡大した。韓国政府は24日までに日本に通告し、協定は11月22日を最後に終了する。日本政府は韓国に抗議した〉(23日付本紙電子版)。

 GSOMIAを韓国が破棄することは、日本として織り込み済みだった。既に軍事やインテリジェンス面での韓国との信頼関係が崩れているので、GSOMIAが持つ意味はほとんどなくなっていた。日本が韓国に譲歩してGSOMIAを維持しても、韓国は今後、この協定を人質にとって、日本にさらなる譲歩を求めてくることは明白だった。

 従って、首相官邸や外務省、防衛省がGSOMIAを維持するために韓国に特段の働きかけをしなかったのは、外交的駆け引きからすれば当然のことだ。日本と韓国は、それぞれ米国と軍事同盟を結んでいる。その結果、日韓は軍事的準同盟関係にあったが、韓国がGSOMIAを破棄したことによって、この関係は崩れた。外交的に韓国は、友好国といえない状態になっている。

 隣家との関係がうまくいかなければ、引っ越すという解決策がある。しかし、隣国との関係では引っ越すという選択肢はない。従って、韓国との緊張緩和に向け、日本は一層努力する必要がある。

 本紙は23日の社説で〈日本の植民地支配に根源がある徴用工問題は、歴史の反省抜きに法律や条約を論じても解決するとは思えない。/安倍晋三首相は今年の戦没者追悼式でもアジア諸国への加害責任に触れなかった。改めて歴史認識を説くことで、複雑化した日韓関係再構築の糸口を見いだすことができるのではないか。/韓国側は国際社会の一員である以上、国際法を順守する姿勢を示すべきである。/対抗措置の応酬は日韓両国にとって何のプラスにもならない。両国政府に理性的な対応を強く求めたい〉と主張する。

 筆者もまったく同じ意見だ。ただし、歴史認識問題や国際法について、日韓両国の政府高官や外交官が、腹を割って話し合う信頼関係が現時点では崩壊している。不信を信頼に転換するための努力が日韓双方に必要だが、この過程はかなり長い時間を必要とする。その間に、韓国軍と日本の自衛隊の間で、偶発的な武力衝突が発生すると、事態が収拾できなくなる危険性がある。

 現状で必要なのは、日韓の武力衝突を避けることと、万一、武力衝突が発生しても、それを拡大しないようにする方策だ。論壇で活動するわれわれも、日韓の武力衝突を煽(あお)るような言説を抑える努力をしなくてはならない。

(作家・元外務省主任分析官)

(琉球新報 2019年8月24日掲載)