南風原町新川にある県立南部医療センター・こども医療センターの一室。離島派遣以外に、しまナースが業務をこなす事務室が置かれている。「最近どう? 何か変わったことはあった?」。2016年度から2年間しまナースに従事した冨山鈴華さん(38)は、昼休みの時間帯を狙い、診療所看護師によく電話を掛けていた。
冨山さんは13~14年度、座間味診療所に勤務。ちょうどしまナース制度が立ち上がった年で、多くのサポートを受けることができた。「今度は自分が支える側に回ろう」と、診療所を離れた後にしまナースに。同時期にしまナースになった下地和枝さんと、電話やメールでの相談強化を決めた。「診療所での経験があったので、どこでつまずきやすいか共感しやすかった」と振り返る。
県内16カ所にある離島診療所の看護師が研修などで島を離れる際に派遣されるしまナース。診療所の看護師は1人体制で、土日祝日でも地域を離れるのが難しい。急患には診療時間外でも対応するなど、24時間緊張を強いられる。ただ、下地さんは「これまでは診療所看護師の役割の重要性はあまり知られていなかった」と指摘する。
従来、離島診療所の看護師は、その土地に暮らす有資格者が定年まで勤めるのがほとんどだった。島での働きぶりは拠点病院まで伝わりにくい。さらに、集中治療室(ICU)や救急勤務に比べると、業務的に緩いと誤解されがちだったという。下地さんは「慢性期など全てに対応しなくてはならず、運営上の管理・調整能力も求められる」と重要性を強調する。しまナース制度の開始以降、診療所の役割が見直されるようにもなった。
離島では日常的な相談相手が少なく、悩みを抱え込みがちだ。横のつながりをつくり、勤務環境の改善を図ろうと、歴代しまナースたちは試行錯誤を続けている。各地の取り組みや研修の様子などを紹介する「しまナースだより」は、これまでに66号に達した。各診療所や拠点病院に配布し、情報共有している。
さらに、16年からは診療所看護師の悩みなどを共有するウェブ会議を月1回実施。運営にはしまナースOGや診療所経験がある看護師らが関わっている。
現在、南部医療センターに勤務する下地さんと冨山さんは「しまナースを経験できて良かった」と口をそろえる。下地さんは看護師長を務めており、「管理職に求められるノウハウが凝縮されていた」と話す。
「地域でどのように支えられているのか、生活者としての患者さんを知ることができた」と語る冨山さん。病院外での患者の日常生活を意識するようになり、後輩にもそういった側面を伝えるよう心がけているという。しまナースの経験は、至るところに息づいている。 (前森智香子)