訴訟予算を審議する市議会に対応は? 宮古島市の「住民訴訟原告提訴」方針


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市民有志が開いた野党市議との意見交換会で、意見を述べる市民=1日、宮古島市平良

 2014年度に宮古島市が実施した不法投棄ごみ撤去事業が違法だとして市民6人が提訴した住民訴訟を巡り、宮古島市は原告の市民6人に対して名誉毀損(きそん)で損害賠償を請求する方針を固め、手続きを進めている。3日に開会した市議会9月定例会に市民らを提訴するための議案を市が提案した。下地敏彦市長は提訴について「最高裁の決定の後にも、市が間違っているという主張を続けるのは、名誉毀損にあたる」との見解を示している。 (真栄城潤一)

 不法投棄ごみ撤去事業を巡っては、市職員らが計量データの改ざんを行うなどの問題が発覚したことなどを受け、市民有志6人が下地市長らを相手に事業費2251万円の返還を求めて住民訴訟を起こし、最高裁まで争われたが市民側が敗訴した。

 訴訟では、市民側が事業の予算の高額さや、ごみを撤去する現場の立地条件などから「全てのごみを撤去するという契約が不合理」などとして撤去が不可能な契約を敢えて締結した違法性を主張した。

 ■「市の名誉を毀損」

 しかし那覇地裁はごみの総量の正確な推計の困難さや、市が事後に行った積算にも一定の信用性があるとした上で、「技術的に困難なごみの撤去までを強いる契約とは考えにくい」として、違法性はないと結論づけた。

 このことを踏まえ市側は、原告となった市民らが今年7月に開いた訴訟報告会で「違法な契約を締結した」などと市の違法性をあらためて主張したことを「(契約を)曲解して誤った主張」を繰り返していると指摘。「公然と虚偽の事実を摘示して宮古島市の名誉を毀損した」などと提訴理由を示し、損害賠償として1100万円の支払いを求めている。

 市が市民を提訴するという事態を受け、住民訴訟の原告の1人は「行政機関はそもそも市民からの監視を受けるもの。市民の疑惑に対しては脅しではなく、対話で謙虚に答えるべきではないのか」と批判。その上で「民主主義の意味を考えるためにも、きちんと闘っていかなければならない」と語気を強めた。別の原告は「今回のケースでは、『見せしめ』という意味合い以外に、市が市民を訴える理屈が分からない。あきれて返す言葉もない」とため息をついた。

 ■市民への説明

 東村高江のヘリパッド建設工事に反対する住民の抗議活動を、国が通行妨害だとして訴えた訴訟で住民側代理人を務めた横田達弁護士は「反対した者を狙い撃ちして『反対するとこんな目に遭う』という脅し目的で企てているのではないか」と指摘し、高江の訴訟と同様の「スラップ訴訟」だと指摘する。

 「もし(市の)評判が下がることを承知の上で、市民運動を抑えるという意図があるとしたら恐ろしい話だ」とし、今回の市の対応は住民自治を後退させるとして「政治スタンスの問題ではなく、民主主義の根幹の話として、議会ではしっかり冷静に議論してほしい」と強調した。

 4日の市議会では議案への質疑があり、提訴の議案に質問が集中した。宮古島市議会は与党多数の議会構成となっている。市民の税金を使って市民を提訴することから今回のケースについて市民全般の反応を注視しながら慎重に様子を見る与党市議も一定数いる。市民への説明を求める意見も質疑で出たが、市は耳をかさず、あくまで提訴へ踏み切る強い姿勢を示した。

 議案は市議会の総務財政委員会で審議され、9月定例会最終日に採決する。議案の可否が注目される。