人としての生きがい 感じられる社会へ 力を合わせよう 玉城デニー知事に聞く


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 沖縄県は「誰一人取り残さない、沖縄らしい優しい社会」を県政の柱に掲げ、SDGs(持続可能な開発目標)の推進に力を入れる。8月には民間有識者が県政の重要課題を話し合う万国津梁会議でSDGsの議論が始まった。旗振り役は玉城デニー知事。「誰一人取り残さない」という、SDGsと同じスローガンを就任前から訴えてきた。なぜその思いが生まれ、実現を目指すのか。思いを語ってもらった。

聞き手 松元剛編集局長

「どの指も大切」個性認めた母の言葉

 〈伊江村出身の母と米軍基地に駐留する米海兵隊員の父との元に生まれた。父は帰国したが母は沖縄に残ることを決意。米軍基地建設に沸く名護市辺野古で母は住み込みで働いた。玉城知事は別の家庭に預けられ、血縁がなくても心を通わせるウチナーンチュの温かさの中で育った。風貌が目立ち、先輩からはいじめられたという〉

「おっかー」と呼んでいた育ての母・知花カツさんと、幼い玉城デニー知事(玉城知事提供)

 「泣いて帰ると育ての母が『トゥーヌイービヤ、ユヌタキヤネーランドー。10本の指は全部形も長さも違うけど、どの指も大切だ。違うからいいんだよ』と言ってくれた。個性があるのが当たり前だと、母の言葉から自然に学んでいた」

 「夏休みにはバスと船を乗り継いで母の故郷の伊江島に行った。小さな小学生でも一日農作業や家畜の世話の手伝いをする。地域の人に『○○の子でしょう』と声を掛けてもらい、みんなで子どもを見守る気持ち、風土があった。出身の旧与那城村でもそうだが、大変な時代だったが子どもへの愛情は豊かで、貧しいからこそ分け合うことをごく自然にやっていた」

―「誰一人取り残さない」という思いはどのように生まれたか。

 「育ってきた環境から必然的に感じていたのではないかと思う。10歳から母とコザに住み、基地と共存する街の雰囲気を感じていた。1970年のコザ騒動は衝撃的で、何が起きたのか分からず『戦争か』と思った。成長すると共に、沖縄の戦後の歩みは人権や自由への闘いであると、沖縄の民主主義の尊厳のようなものを先輩方から教わってきた。あらゆる人たちが幸せに生活していくには、多様性と寛容性が重要だと考えるようになった」

 「その思いはラジオのパーソナリティーをしていた頃から強くなり、政治の道に進んだ時にも誰一人取り残すことのない沖縄らしい優しい社会をつくりたいと思うようになった」

自立、共生、多様性 沖縄らしいSDGs

―SDGsでは沖縄社会の課題も網羅できる。どのように関連づけるか。

 「沖縄県は県民の意見を集め、議論を重ねて、2030年の将来像として『沖縄21世紀ビジョン』をまとめ、県政の中心に据えている。これにSDGsの理念と計画を重ねると、これからの時代に合った内容で、県民一人一人に沖縄の発展に関わってもらえる」

―国、世界もSDGsに動いている。

 「これからの時代に目指すものとして国が掲げるSociety5・0にもSDGsは切り離せない。持続可能な開発は、経済一辺倒でも保護一辺倒でもない。国際社会が開発と保護のバランスを議論することは、沖縄らしいSDGsのヒントにもなる」

―県民と一緒に、どのように取り組んでいくか。

 「自立、共生、多様性をキーワードに人間の尊厳を守り、多様性、包摂性、寛容性を持った『共生の社会』の視点を持ちたい。県民はチムグクルやユイマールといった精神を大切にしている。前の世代ウヤファーフジからこれからの子どもたちワラビンチャーまで生命が連関している中に今の自分たちを置き、先の社会を考えている。そんな価値観を共有しているのは県民の力だ。県民が持っている沖縄らしさと力を生かし、21世紀ビジョンと合わせることで沖縄らしいSDGsが展開できる」

―対話も重視している。

 「SDGsの成功の鍵はパートナーシップだ。互いの協力があって初めて社会は永続する。国、県、市町村が対話と協議を重ねる必要がある。先駆的に取り組んでいる市町村に学び、逆に県庁の不十分さもヒントにしてもらって連携したい。全ての人がステークホルダーであり、県民にもパートナーシップを結ぶ一人になってほしい。対話と協力、協調は言い換えれば『ユイマール』。ウチナーンチュが持っているものであり難しくないと思う」

一人一人できること 入り口つくりたい

玉城デニー知事とお孫さん(玉城知事提供)

―「何をしていいか分からない」という人にはどのように話すか。

 「子どもたちには『沖縄の海を大事にするにはどうしたらいいかな』『海に流れる川の水をきれいにするにはどうしたらいいかな』と考えれば、地球や沖縄に優しくできることがあるよと話す。SDGsは経済、社会、環境にまたがるゴールが設定されており、どれかは私たちの社会や生活に関わる」

 「平和、つまり安心で不安のない生活にはSDGsの全てがつながる。例えば犬や猫を最後まで世話することも平和につながると考えると、できることの入り口が見える。どの分野なら関われるか、ヒントやキーワードを分かりやすく伝えれば一人一人ができることは増える。その入り口をつくっていきたい」

 「誰一人取り残さない社会を実現するには『みんなは一人のために、一人はみんなのために』で、一人でも多くの人が自分も参加者だという意識を持つことが必要だ。参加することが自分の成長のステップになると捉えてもらえるといい」

―目指す未来像は。

 「健やかな環境の中で、子どもたちが人としての尊厳を持って育つのが当たり前になること。SDGsは理想を実現するための手だてであり、世界共通の枠組みだ。大切なのはゴールを見据えて手前にある課題を解決していくこと。夢をかなえるという、シンプルだが人としての生きがいを感じられる社会へ力を合わせていきたい」