「体がばらばらになってしまう感覚」 原因不明の難聴のため付けた補聴器なのに…爆音を増幅


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自作の絵本「どうしよう どうしよう」を手に、米軍機の爆音について語る今秀子さん=北谷町

 「静かな空を返してほしい」。1982年の第1次嘉手納爆音差止訴訟の提起から37年が経過したが、原告らの願いはいまだ実現していない。第3次訴訟の控訴審判決が11日、福岡高裁那覇支部で言い渡される。騒音が受忍限度を超える違法状態だと司法が認定した空を、今も米軍機が飛び交う。原告らは被害救済の抜本的な解決のため、飛行差し止めを求めている。

 突然、頭の中心を突き刺すような激しい痛みが襲った。北谷町の自宅で過ごしていた今秀子さん(71)は、とっさに左耳に付けていた補聴器の電池を外した。痛みはやんだ。静寂の中で窓から空を見上げると、米軍機が飛んでいた。

 「音というより痛み。体が爆発し、ばらばらになってしまうような感覚だ」。補聴器が爆音を増幅してしまっていた。以来、米軍機に恐怖感を抱き、嘉手納基地の方向から鈍い音がすると慌てて補聴器を外した。使い始めて数年をかけ、やっと自分の耳に合う補聴器を見つけた頃だった。

 中途難聴になったのは20年ほど前。自宅でテレビを見ていると、娘に「どうしたの、こんなに大きな音で」と驚かれた。知人に声を掛けられても気づかず、後で「無視された」と言われて人と関わることが怖くなった。医師には「難聴だが老人性ではなく、原因は不明」と診断された。

 知人に「うるさいなら補聴器を外せば」と言われたこともある。だが外しては会話もままならず、誰かが訪ねて来ても気づかない。「米軍機はいつ飛ぶか予測できない。編隊で通過したり何度も旋回したりする。そのたびに外していては生活ができない」。2000年提訴の第2次嘉手納爆音訴訟で、原告に加わった。

 第3次訴訟は法廷で意見陳述し、補聴器で増幅される爆音に悩まされる実態を訴えた。「爆音と難聴の関係は分からない。しかし恐ろしい音におびえることなく当たり前の生活を送る権利は誰にもあるはずだ」

 今さんは「体がばらばらになる音」を伝えるために6月、体験を絵本「どうしよう、どうしよう」にまとめ、出版した。主人公の女の子は耳が聞こえづらくなっていくことに戸惑い、補聴器で聞く爆音におびえる。「爆音さえなければ、補聴器に助けられて再び人と関わるありがたみを実感できたはずだ。裁判所は米軍機の飛行を差し止めてほしい」と願った。
 (宮城隆尋)


 

『どうしようどうしよう』 え・ぶん こんひでこ
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