内閣改造と日韓関係 日本脅威論が不安要因<佐藤優のウチナー評論>


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 11日、安倍晋三首相は第4次再改造内閣を発足させた。この内閣改造が外交に与える影響について考えてみたい。

 現下日本外交の最大課題は、1965年の日韓国交正常化後、最悪の状態になってしまった韓国との関係の改善だ。今回の内閣改造に関する韓国紙「中央日報」の報道を見てみよう。

 <対立が続いている韓日関係にも悪材料として作用する見通しだ。麻生太郎副総理を筆頭に茂木敏充外相、菅原一秀経済産業相、萩生田光一文部科学相、高市早苗総務相など安倍首相と近い強硬派を内閣に布陣した。「安倍首相の影」と呼ばれるほど腹心の萩生田氏は7月の日本の輸出規制措置発動以降「韓国たたき」の先鋒に立った人物だ。萩生田氏は韓国の戦略物資管理が徹底されていないという日本政府の主張を後押しするため「北朝鮮流出説」を流して両国の葛藤を深めたりもした>(前掲紙)

 萩生田氏に対する警戒心が高い。韓国を「ホワイト国」から除外するに当たっては、首相官邸と経済産業省が中心的なプレーヤーだったことが韓国メディアにはよく見えていないようだ。

 河野太郎新防衛相に対する忌避反応も強い。<南官杓駐日大使に「無礼」と言った河野太郎外相は防衛相に横滑りした。河野外相の突発行動で、比較的穏健派に分類された岩屋毅防衛相時代とは異なる両国安保ライン間の不協和音が強まるという分析が出ている。内閣改造当日、ある民放番組は政治評論家の田崎史郎氏の言葉を引用し、「内閣の面々を変えることで対韓国シフト(shift)を強化した」と指摘した>(前掲)

 これまで韓国メディアは、岩屋前防衛相の対韓姿勢に対しても批判的に報じていた。その岩屋氏よりも強硬な河野氏を防衛相に据え、韓国に対する敵対感情を刺激して政権基盤を強化することを安倍首相がもくろんでいると見ているようだ。

 「中央日報」以外の韓国紙も、今回の改造内閣で日本の対韓外交はより強硬になるという見方を示している。すべてのマスメディアが、日本の脅威を過剰に訴えている状況は健全ではない。韓国世論の日本に対する感情はますます硬化する。このような状況で、韓国軍と自衛隊の間で偶発的な武力衝突が生じると、統制不能な状態に発展する危険性がある。日韓の武力衝突が生じないようにすることが、日本外交の最重要課題と思う。万一、日韓で武力衝突が発生すると東京の政治エリート(国会議員と官僚)だけでなく、日本世論が沖縄の基地機能を強化し、抑止力を強化するべきだという方向に流れると筆者は見ている。

(作家・元外務省主任分析官)

(琉球新報 2019年9月14日掲載)