国家安全保障局長人事 責任感欠如した外務官僚<佐藤優のウチナー評論>


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 最近の外務官僚は弛緩(しかん)していて、首相官邸の要請に応えることができていない。その結果が、13日の国家安全保障局長の人事に反映したと筆者は見ている。国家安全保障局長のポストから外務省出身(元外務事務次官)が退任し、警察庁出身の北村滋氏(前内閣情報官)が就いた。

 国家安全保障局長は外務省出身者の指定席と考えていた外務官僚の不満が爆発している。一部の外務省幹部は、インテリジェンスの内情をよく知らない記者に対してオフレコで「警察庁出身で外交や安全保障の素人である北村氏に国家安全保障局長が務まるはずがない」という情報を流しているが、それは間違いだ。

 内閣情報官は日本のインテリジェンス・コミュニティーのトップだ。CIA(米中央情報局)、モサド(イスラエル諜報(ちょうほう)特務局)、SVR(ロシア対外諜報庁)などの長官が内閣情報官のカウンターパートだ。表の外交で処理しにくい事柄については、インテリジェンス機関が処理する。もちろん秘密裏に行われる外交なので表に出ることはない。

 外務官僚は、人事のことで頭がいっぱいで、仕事に精進するという姿勢を取っていない。記者に対して、官邸を誹謗(ひぼう)中傷することで自己保身を図っている。例えば、朝日新聞の牧野愛博記者が、外務官僚のこんな発言を紹介している。

 〈最近ではロシアとの北方領土を巡る政策でも「四島一括返還論」を訴えてきた外務省の主張はほとんど無視されている。外務省関係者の一人は「昔なら課長が政策を仕切っていた。いまは首相官邸の補佐官たちが『首相の関心事項だから』と言って過去の政策との整合性も考えずに局長に指示を出してくる。省内の空気は沈みっぱなしだ」と語る。別の外務省幹部は後輩たちとの会食で「最近の局長は昔の課長みたいだな」と冗談を飛ばしたところ、後輩たちから真顔で「課長じゃなくて、課長補佐なみですよ」と切り返されたという。〉(『Voice』2019年10月号)。

 1991年秋から日本政府は「四島一括返還」という方針を取っていないので、この発言をした外務官僚は事情をよく知らない。にもかかわらず、官邸を非難している。対韓国外交についても、外務官僚は職業的良心に基づいて、紛争の解決に向けた努力をしているとは思えない。

 米海兵隊普天間飛行場の移設を理由とする辺野古新基地建設に関しても、外務官僚は「これは首相官邸の案件で、われわれとは関係ない」という認識を抱いている。新基地建設に対する不満や、県民の意思に反して建設された基地が政治的、社会的に不安定な状況に置かれ、それが外務省が命綱と考える日米同盟の基盤を揺るがすことになるということについても真剣に考えていない。

 沖縄の意思を外交に反映させるためには、もはや責任感の欠如した外務省に頼ることはできない。沖縄の利益を体現した外交機能を持つ部局を知事直轄で作ることを考えた方がいい。

(作家・元外務省主任分析官)