サチコー「ありがとう」 喜劇の女王 最後まで笑いと元気届ける


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待ってました!/おはこのお笑い劇「福ちゃん」をコミカルに演じる仲田幸子(手前)=16日、沖縄市民会館(ジャン松元撮影)

 喜劇の女王・仲田幸子が率いる劇団でいご座最後の舞台「敬老の日公演」(沖縄テレビ放送主催)が16日、沖縄市民会館で開かれた。今回の舞台を最後に同劇団での活動を引退する幸子は、現代歌劇・沖縄版「貫一お宮」でお金に目がくらみ資産家に娘を差し出す母親役、おはこのお笑い劇「床屋の福ちゃん」ではおかしな男性客役を演じた。72年の芸歴を誇る貫禄ある演技を見せ、最後まで満員の観客に笑いと元気を届けた。

 劇団でいご座が解散となり、大きな舞台で幸子の笑いを堪能できる機会は最後とあって、会場には多くのファンが詰め掛けた。幸子の登場を今か今かと待っていたその時、太鼓の音と共に「イヨーオ」と幸子の声が響く。姿が見える前から観客は笑顔になり、拍手が湧き起こった。現れた幸子は小柄ながら大きな存在感を放ち、「皆さんの笑顔を見て幸せな小林幸子です」とあいさつし開始早々観客の笑いをさらった。

 「貫一お宮」は、金色夜叉(尾崎紅葉作)を基にでいご座がアレンジしたオリジナルの物語。幼なじみの貫一(高宮城実人)とお宮(仲田まさえ)は結婚の約束をしていたが、お宮の母(幸子)が資産家の富山(普久原明)にお宮を差し出してしまう。お宮の母は月々、富山から金銭を受け取っていた。幸子がにんまりとした顔で「お金は安定剤」と言うと会場はどっと笑いに包まれた。富山に嫁いだお宮は愛情のない生活を送っていた。その様子を知った母は、お宮と富山を引き離す。その後、お宮と貫一は再会する。

よろしくございます/幕開けで満員の観客に感謝の言葉を述べる

 富山との結婚に怒った貫一がお宮を蹴飛ばしたり、富山に暴力を振るわれたお宮が心を病んだりと、痛切な場面がある物語だが、幸子が登場するとなぜか笑いが起きてしまう。滑稽な動きや独特なせりふの言い回しでどんな悲話も笑いに変える幸子は“喜劇の女王”のたたずまいを観客に見せた。

 「床屋の福ちゃん」は理容師・福ちゃん(上間基)と妻(仲田明美)の床屋に、白化粧にひげづらのおかしな男(幸子)が客として訪れる。福ちゃんは顔の2倍もある大きなはさみで髪を切ろうとするが、夫婦げんかで手元が狂ってしまう。その度に幸子が野太い声で「エーサイ」「アイエー」と言い、爆笑の渦に巻き込んだ。

 フィナーレではディアマンテスのアルベルト城間が登場し、歌で感謝を伝えた。ひ孫から花束を受け取った幸子が「ちょっと呼ばれたら行く気でいますので」と意欲を見せると、ねぎらいと今後の活躍を期待する大きな拍手が送られた。

 1956年に劇団でいご座を旗揚げした後、座長として一座を引っ張ってきた幸子は来年で米寿を迎える。体調が優れない中でも「人を笑顔にしたい」と舞台活動を続けてきた。その姿に元気や勇気をもらった人は大勢いるだろう。でいご座での活動は終えたが、2020年公開予定の喜劇映画への出演が決まっている。新たな舞台で幸子の笑いに出会える日を楽しみに待ちたい。
 (関口琴乃)

悲話も笑いに/ふてぶてしくも憎めない役どころ。笑いをちりばめ、熟練した演技で魅せる
家族と共に/現代歌劇・沖縄版「貫一お宮」で孫の仲田まさえ(後方)の母親役を演じる