外部検定に惑わされるな 人生のビジョン思案に力注いで 木村達哉(灘高校・中学校教諭) 言わせて大学入試改革(1)


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木村達哉(灘高校・中学校教諭)

 僕は沖縄が大好きだ。青い空と海、肌を刺す太陽、人々の笑顔、こんなにも僕を慰めてくれる場所は世界のどこを探してもない。

 何年前だったか、初めて学校で講演をさせていただいた。昭和薬科大学附属中学校・高等学校の体育館で、沖縄の人たちのお役に立っている自分がうれしくて、興奮しながら話をしたものだ。以来、さまざまな学校で講演や授業をさせていただいた。今日(27日)は知念高校で保護者の方々に講演を、そして明日はジュンク堂書店那覇店でトークを行う。良かったら会いにきてほしい。

 興南高校や那覇高、普天間、西原、読谷、名護高など、たくさんの学校にお邪魔(じゃま)させていただき、屈託のない笑顔に触れ、生徒たちが健やかに育つことを願いながら心を込めて話した。

 彼らが僕に残してくれたメッセージはたくさんの「ありがとう」で溢(あふ)れていた。それと同時に学校だけでなく夜になると塾に通い、成績が伸びないと嘆き、笑顔に隠された苦悩が彼らを覆っていることを知った。なんとかしたいと思い、年に数回ではあるが無料セミナーを開催している。

 英語の外部検定試験が入試に導入されると報じられてからかなり時間がたち、文科省の迷走ぶりに学校関係者の多くは失笑している。大学側のほうが理性的で、多くの大学では外部検定試験を実質的には合否判定に用いないといっても過言でなかろう。

 日本の高校生の90%以上が英検準2級以上の英語力を持っていると言われている。多くの大学がCEFR(セファール)A2以上の英語力を持っていることを合格の条件にすると言っている。A2以上というのは、英検では準2級以上を意味するので、要は90%以上の生徒たちがすでにクリアしているということである。そんなつまらないことに時間を割くのではなく、共通テストと2次試験に力を注いでくださいと大学は言っているのであろう。

 自分で試験を作る能力が低い私立大学の場合には外部検定試験を使うところもあるが、国公立大学の場合には、文科省に忖度(そんたく)して利用するにはするけれども、実質的には共通テストと2次試験で合否を決めるというところが大半なのである。

 この外部検定試験導入は安倍政権の経済政策の一環である。受験生は大学受験にこれまで以上にお金を使うことが要求される。人材育成に予算を使うのは国家として当然のことなので、本来的に検定料は国家が負担すべきであるが、すべて個人負担となっている。したがって多くの教員がこの改悪に対して反対の声を挙げているのである。

 沖縄の中・高校生たちにはこういったものに心を惑わせるのではなく、自分の人生に責任を持ち、人生のビジョンを深く考えることに心血を注いでほしい。どのように生きるのか、どのようにして社会に貢献するのか、そのためにはどういう力を身につけねばならないのかを深く深く考えてほしい。その中から勉強に対するモチベーションが生まれるのである。

 (木村達哉灘高校・中学校教諭)

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木村 達哉
 きむら・たつや 1964年生まれ、奈良県出身。2018年度は東京大に92人が合格した国内有数の進学校、灘中学・高校(兵庫県)英語科教諭。関西学院大を卒業後、自動販売機の営業職などを経て1998年に同校に。灘中野球部顧問も務める。「夢をかなえる英単語 ユメタン」シリーズなど著書多数。2016年から沖縄県内に別宅を構え毎月来県する沖縄好き。

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 新しい大学入学共通テストが2021年1月に実施されるにあたり、2人の執筆者に交互に、月一度、その背景や思いを執筆してもらう。次回は10月25日付で、東京大学元副学長の南風原朝和先生が執筆する。