玉城デニー沖縄県知事就任から1年 主要公約の進捗を点検


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トークキャラバンで登壇する玉城デニー知事(左端)ら=8月19日夜、名古屋市公会堂

 玉城デニー知事の初当選から30日で1年を迎えた。昨年の知事選で玉城知事は「新時代沖縄」「誇りある豊かさ」「沖縄らしい優しい社会の構築」を掲げた。10月4日で玉城県政の発足からも1年となる。米軍普天間飛行場移設に伴う名護市辺野古の新基地建設をはじめ、地域振興や子育て支援、環境保全、文化継承など多岐にわたる県政の課題に取り組んできた。主要公約の進捗(しんちょく)を点検し、この1年を振り返る。

【基地】問題意識、イベントで喚起

 昨年の知事選で玉城デニー知事は名護市辺野古の新基地建設阻止を前面に訴えて当選を果たした。就任後は政府に対話を通じて工事中止を求めてきたが、政府は移設推進の姿勢を崩さずに作業を強行している。県は二つの訴訟を提起し、政府と県との対立は法廷闘争に入った。

 玉城知事は全国世論を味方に付けようと、自身による県外での講演「全国キャラバン」を展開。メディアを通じた情報発信に力を入れ、野外音楽催事「フジロックフェスティバル」にも出演して話題を呼んだ。10月14~20日、米国を訪問して政府関係者や議員、有識者と面談し、辺野古新基地建設反対を訴える。

 辺野古新基地を除いては政府と連携して基地再編計画を推進したい考えだが、那覇港湾施設(那覇軍港)の浦添市移設などを巡って辺野古との立場の違いを追及されている。

【観光】入域客1千万人目前

 2018年度の入域観光客数が999万9千人となり、県の長年の目標だった1千万人が目前となった。さらに21年度には1200万人との目標を掲げるが、質の向上や観光収入の増加が課題だ。18年の観光客1人当たりの県内消費額は7万3355円と前年度は上回ったものの、伸び率は0・7%にとどまった。渋滞やゴミ問題など観光客急増による県民生活への負担も顕在化してきており、観光客、観光事業者、県民それぞれの満足度向上が必要だ。

 持続可能な観光開発を図るため、観光目的税制度の検討委員会を設け、2021年の導入に向けて具体的な議論に動いた。税の徴収方法で入域税やレンタカー税などの候補があったが、宿泊税に決まった。

【アジア経済戦略】製造業の誘致で事業展開後押し

 沖縄は中国や東南アジアの主要都市に近い好立地にあることから、県はアジア経済戦略構想を掲げ、さまざまな事業を展開する。

 玉城知事が公約に掲げた「臨空・臨港型産業の集積を促進」するため、中城湾に面したうるま市の国際物流拠点産業集積地域に精密機器メーカーなどの誘致を進める。県内からの製品出荷を推進するため、国内外を結ぶ定期航路就航も目指す。

【子育て】居場所、支援員が不足

 玉城県政は「子どもの貧困対策」を最重要施策に掲げるが、困窮世帯の子どもたちを支援する子どもの居場所の設置や貧困対策支援員の配置、教育と福祉の連携、雇用対策など支援の量の拡大や質の向上は依然として課題が山積している。

 子どもの居場所や子ども食堂の数は今年3月末現在で、26市町村に139カ所と広がってはいる。ただ県内小学校区の約7割に居場所が1カ所も設置されず、支援員の配置がない自治体もある。全庁的な取り組みへ3月に県子どもの貧困対策計画を改定。全市町村設置を目指す母子健康包括支援センターは6市町村が整備し、17市町村で次年度中の設置が検討されている。

 中高生のバス通学無料化は実施に向け公立高校に通う全生徒に通学方法や交通費を聞くアンケートを配布するなど調査事業に着手しており、来年度以降は事業化に向けた検討を進めるとしている。

 貧困率が全国平均約2倍の29・9%と深刻な子どもの貧困問題の解決には幅広い連携の枠組みを構築することが求められる。

【福祉・医療】北部基幹病院 合意形成遅れ

 公約に掲げた県立北部病院と北部地区医師会病院を統合する「北部基幹病院」の整備に向けては県と北部12市町村との合意形成が遅れている。

 当初は今年3月末までに県や北部12市町村などが協議する基本的枠組みの合意を図り、本年度内に基本構想、基本計画を策定するとしていたが、経営システムや財政負担など基本的枠組みの合意が先送りされた。

 その後、実務者レベルの話し合いなどが進められ、12市町村が県の提案に対する考え方をそれぞれで協議している。

【雇用】求人1倍台も質の改善課題

 玉城デニー知事は公約に「非正規雇用などの問題に向き合い、格差社会の是正に取り組む」と掲げてきた。沖縄労働局の発表によると、県内7月の有効求人倍率(季節調整値)は、1・19倍で、34カ月連続で1倍台を維持した。

 好況な県経済を背景に求人数が求職者数を上回り、雇用情勢は着実に改善が進んでいる。

 ただ、県内の正社員の有効求人倍率は、全国平均値と比べ半分程度の水準にとどまるなど依然、課題は残る。

 今後は雇用の質の改善とともに、正社員雇用のさらなる拡大が課題だ。

【農林水産】海外市場開拓 輸出額が増加

 農林水産業の振興については亜熱帯気候を生かした「おきなわブランド」の確立や国内・海外市場を視野に入れた取り組みを公約に掲げた。2018年の県内からの農林水産物・食品の輸出額は33億1300万円で、目標額の26億3600万円を大きく上回った。海外市場のニーズ調査や販路開拓、プロモーションの強化が成果に結び付いた。

 農業の担い手については、2018年の新規就農者数が282人で5年連続で減少。目標とする年間300人には届かなかった。

【公共交通】鉄軌道採算課題 事業化に至らず

 公共交通システムの核となる鉄軌道の導入は事業の採算性に課題があり、政府に要請を続けているが、事業化には至っていない。鉄軌道と地域を結ぶ「フィーダー交通ネットワーク」については検討段階だが、鉄軌道とモノレールのすみ分けに課題が残る。LRTやバス再編など広域的な公共交通の検討も求められる。

 那覇と沖縄市を結ぶ基幹バスは10月1日から本格的な運行が始まる。ただ、路線バスは待遇の良い観光業界に流れるなど運転手不足が深刻化している。県は運転手確保に向け、求人や社内研修期間の賃金支援などに充てる9月補正予算を組んでいる。

 離島振興では県の一括交付金を財源に離島住民の船賃の約3割~約7割、航空運賃の約4割などを軽減する事業を継続。

【スポーツ・文化】「歴史文化の日」 年度内にも制定

 玉城知事は「琉球歴史文化の日」制定を公約に掲げている。2019年度中にも制定する方針だが、県文化振興課によると具体的な候補日などは検討中という。制定により地域の伝統文化継承や先人の歴史や知恵を広く県民に知ってもらうことなどが狙いだ。

 スポーツ振興関連では、20年の東京五輪・パラリンピックに向け、各国の事前キャンプ誘致を進めている。現時点で8種目のキャンプが決定している。県は今後も誘致活動を展開する方針だ。

 サッカーJ1の公式戦に対応したスタジアム建設は那覇市の奥武山公園内に建設する基本計画を16年に策定。県は一括交付金を財源に見込んでいたが調整は難航している。

【環境】世界遺産登録へ県民意識高める

 2020年夏に世界自然遺産の登録を目指す「奄美大島、徳之島、沖縄島北部および西表島」に関しては、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の諮問機関、国際自然保護連合(IUCN)が指摘した希少種保護策に19年度予算で3億2800万円の予算措置を図っている。登録に向けた準備を進め、地域の協力と県民意識を高める活動の支援に取り組んでいる。

 玉城知事は、公約で「やんばるの森・いのちの水基金」(仮称)の創設を掲げており、20年度以降の創設を目指す方針。